日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

盛功社吉田民助の特許である中空大型活字鋳造装置によって太平洋戦争期に鋳造されたものと思われる初号明朝活字

近畿地方のある印刷所さんに伝存していた1731本――このうち45%強が有徴ピンマーク入り――の初号明朝活字を3年がかりでお迎えさせていただいたのですが、最終便の中に1本、特殊な製法による活字が含まれていました。

中空ボディーの初号明朝活字「滅」脚部(斜め方向)
中空ボディーの初号明朝活字「滅」脚部(底面方向:「ゲタ」形にならない)
中空ボディーの初号明朝活字「滅」(文字面斜め方向)
中空ボディーの初号明朝活字「滅」(文字面正面方向)

昭和131938年春に国家総動員法が可決・施行されていますが、『名古屋印刷史』(名古屋印刷同業組合、1940年)によるとその年に「盛功社吉田氏が地金節約活字を發明し、中空活字鑄造装置特許第一三〇七五一號を得て、日本活字鑄造界に一記録を作つた」のだといいます(63ページ:https://dl.ndl.go.jp/pid/1115630/1/53

以前「盛功合資会社または合資会社盛功社活版製造部のものではないかと思われる「NAGOYA 青 SEIKOUSHA」ピンマーク入り初号明朝活字について」に記した通り、明治221889年頃から名古屋で印刷関連事業を営む老舗である盛功社は、大阪の雄である青山進行堂の青山督太郎からの資本を受け入れ、昭和12年1月1日付で、吉田民助を代表社員とする合資会社盛功社活版製造部を設立していました。

昭和13年の段階ではまだ十分な実用化に達していなかったということでしょう、吉田による中空活字は昭和16年度代用品発明研究補助金の対象となっており(『物資』5巻4号43ページ:https://dl.ndl.go.jp/pid/1522720/1/27、「中空大型活字鋳造装置」に関する特許第一四九九八一號(昭和17年公告第133號)が昭和16年5月28日に出願され、同17年1月15日に公告されています(『日本特許発明叢書 工作機械特許編(昭和17年度上半期)』227-230ページ:https://dl.ndl.go.jp/pid/1142454/1/124

中空大型活字鋳造装置に関する特許第149981号の第8図(活字断面模式図)

230ページに掲載されている同特許の第8図では地金節約のために減肉された円錐形状の角度がだいぶ尖った感じに見えますが、実際の活字ではもうすこしだけなだらかな円錐になっており、一方で深さはだいぶ浅いように見受けられます。

中空大型活字鋳造装置に関する特許第149981号の第8図(活字断面模式図)に実測図を重ね合わせ

太平洋戦争期に鋳造されたものと思われる初号明朝の「滅」という活字。「不滅」等の語句を含むスローガンか何かを印刷するために購入され、以後1980年代頃まで40年ほど現役で、現在まで静かに生き延びてくれていた――、ということになるのでしょう。