近畿地方のある印刷所さんに伝存していた1731本――このうち45%強が有徴ピンマーク入り――の初号明朝活字を3年がかりでお迎えさせていただいたのですが、最終便の中に1本、特殊な製法による活字が含まれていました。




以前「盛功合資会社または合資会社盛功社活版製造部のものではないかと思われる「NAGOYA 青 SEIKOUSHA」ピンマーク入り初号明朝活字について」に記した通り、
昭和13年の段階ではまだ十分な実用化に達していなかったということでしょう、吉田による中空活字は昭和16年度代用品発明研究補助金の対象となっており(『物資』5巻4号43ページ:https://dl.ndl.go.jp/pid/1522720/1/27)、「中空大型活字鋳造装置」に関する特許第一四九九八一號(昭和17年公告第133號)が昭和16年5月28日に出願され、同17年1月15日に公告されています(『日本特許発明叢書 工作機械特許編(昭和17年度上半期)』227-230ページ:https://dl.ndl.go.jp/pid/1142454/1/124)。

230ページに掲載されている同特許の第8図では地金節約のために減肉された円錐形状の角度がだいぶ尖った感じに見えますが、実際の活字ではもうすこしだけなだらかな円錐になっており、一方で深さはだいぶ浅いように見受けられます。

太平洋戦争期に鋳造されたものと思われる初号明朝の「滅」という活字。「不滅」等の語句を含むスローガンか何かを印刷するために購入され、以後1980年代頃まで40年ほど現役で、現在まで静かに生き延びてくれていた――、ということになるのでしょう。