築地15ポ半活字の平仮名が大正11年『百人一首講義』第丗二版に見える例の《築地三号細仮名
2018年6月から7月にかけてのことでした。
東京の文字塾第六期で築地三号細仮名*1に依拠した書体づくりに挑戦されていた上杉望さんに、実用例のイチオシ参考資料として佐佐木信綱『百人一首講義』(明治27年、博文館 https://dl.ndl.go.jp/pid/874036/1/13)を挙げていたところ、神田区錦町の秀好堂印刷所が印刷した「第32版」(大正11年1月、博文館)で使われている三号仮名が不思議な書体だったとお教えいただきました。
特徴的なのは「ぬ」「ま」です。なにこれ、と思いました。
— 上杉望 (@zomiiy) July 27, 2018
細かいところですと、「て」はわたしの資料では濁音しかない字形で、「こ」は一画目のハライがあるのにこの押圧でもないのです。 pic.twitter.com/dJwfjNGf7W
2018年7月の時点では《こうした「こ」「ぬ」「ま」は、例えば築地活文舎のような、〈似てるけどちょっと違う書体〉を手がけたところのものかもしれません。》と考えつつも先日まで何の手がかりも無い状態だったわけですが(https://x.com/uakira2/status/1022833032598712322)。
2026年5月に至って大正11年の森川龍文堂『活字一班』(印刷図書館蔵、)に本件三号仮名が掲載されていることに気づき、改めて色々と見直していったところ…………
@zomiiy さん、8年も前の古い話で恐縮です。https://t.co/HMH3iWjUct
— UCHIDA Akira (@uakira2) May 10, 2026
の『百人一首講義』第丗二版って、秀好堂がいつ印刷したものなのでしたっけ?
実は今ごろになって、大正11年の龍文堂『活字一班』に例の築地オリジナル三号ではない「ぬ」や「を」が出現していると気がつきまして。 pic.twitter.com/YAAWw4sNBn
大正9年から10年頃の時事新報と大阪毎日新聞に見える築地15ポ半活字
先日、大正9年の「大阪毎日新聞」と「時事新報」に見える築地新刻8ポイント書風の7ポ75活字を手元の新聞原紙で再確認していた際に、

築地三号細仮名の実用開始時期と現在知られている活字見本
実用開始時期
明治19年の『新調三號和文假名文字體鑑』で活字見本デビューを果たした「築地三号細仮名」ですが、明治21年10月に発行された佐藤洋治『産前産後』序文(https://dl.ndl.go.jp/pid/849301/1/1)では「和様三号」と「三号細仮名」が混用され、現場レベルではまだ移行期間中だったことが伺えます(印刷所:築地活版製造所 https://dl.ndl.go.jp/pid/849301/1/63)。
明治27年『改正三号明朝風活字総数見本』
- 大阪活版製造所、横浜市歴史博物館小宮山博史文庫蔵
明治36年『活版見本』三号片平仮名書体見本
- 東京築地活版製造所、国会図書館蔵( https://dl.ndl.go.jp/pid/854017/1/13)
明治39年『改正三号明朝活字書体見本 全』
- 東京築地活版製造所、横浜市歴史博物館小宮山博史文庫蔵(https://rekihaku.yokohama-history.org/katsuji/jikei/data_katsuji/002019070/)
明治45年『改正三号明朝活字書体見本 全』
- 東京築地活版製造所、横浜市歴史博物館小宮山博史文庫蔵(https://rekihaku.yokohama-history.org/katsuji/jikei/data_katsuji/002019120/)
大正8年『改正三号明朝活字書体見本 全』
- 東京築地活版製造所、印刷図書館蔵
大正8年『十六ポイント書体見本 全』
- 東京築地活版製造所、横浜市歴史博物館小宮山博史文庫蔵(https://rekihaku.yokohama-history.org/katsuji/jikei/data_katsuji/002019200/)
昭和3年『三号明朝活字総数見本 全』
- 東京築地活版製造所、桑山書体デザイン室KD文庫蔵
総合見本帖である明治36年『活版見本』を除く他の総数見本帖では「か」「し」「ひ」「ゐ」に2字形が掲げられているのですが*2、明治27年見本帖から昭和3年見本帖に至るまで、今回問題としている
そのため、本件
大正9年6月21日付で本文活字を秀英電胎8ポイント活字から築地7ポ75活字へと切り替えた『時事新報』や、同時期に築地7ポ75活字を本文活字としていた『大阪毎日新聞』に見られる2倍活字が本件
手元の原紙に見えない仮名を集字
神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ新聞記事文庫経由
まず、神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ新聞記事文庫で、本文が7ポ75だった時期の『大阪毎日新聞』をひたすら眺め、2倍活字に不足平仮名が出現するのを拾い出していきます。
- T08-06-07大毎 https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100060187 「売らない主義 米は懐ろにあるが」「商人の庫の中は空つぽだ」
- T09-05-02大毎 https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100106405 「市電値上げ認可」
- T09-02-07大毎 https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100072025 「八幡製鉄所怠業事件に多数の鮮人混入し居れり」
- T10-05-01大毎 https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100187793 「返答期限で双方セリ合ふ : 大電本社と電業組合員の睨みッこ」
国会図書館のレファレンスに、これこれの見出しに該当する記事がないか、あるなら何面かを尋ねます。レファレンス回答を元に、マイクロフィルムからの紙焼き複写を依頼します。『時事新報』も同様。
時事新報復刻版(大正期)経由
柏書房から発行継続中の『時事新報 復刻版 大正期』で、本文が7ポ75だった時期の『時事新報』をひたすら眺め、2倍活字に不足平仮名が出現するのを拾い出していきます。2026年6月現在、まだ大正10年下半期を扱う第19回配本が実施されたばかりなので(https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760156672)、7ポ75期の全容を見通すことはできません。
復刻版で見つけていた大正9年7月7日の夕刊冒頭面(表題下の日付は7月6日、柱の日付は7月7日)の記事「予算委員総会 陸相顔色を変ゆ」のマイクロ紙焼き複写を国会図書館に依頼したところ、朝刊の終わりである「4面」と、夕刊の2面め3面めである「6面」「7面」のコマは収録されているが、ちょうど夕刊冒頭面である「5面」が欠落しているとのこと。このような事例については、慶応義塾大学三田メディアセンターにて原紙の閲覧を依頼したいところです。
もちろん、復刻版で見つけた不足仮名が国会図書館蔵マイクロフィルムの紙焼きで複写できたものもありました。
私製した築地15ポ半明朝活字の平仮名見本
というわけで、2026年6月末の段階で集字し私製した築地15ポ半明朝活字の平仮名見本です。

なお、「し」は『時事新報』が使っている方の字形を掲げましたが、『大阪毎日新聞』は《点付きの「し」》の方を標準字形としているなど、現時点の私製見本に反映していない内容もあります。
以上取り急ぎご報告。
15ポイント(7ポ半の2倍活字)なんかも、この
以下2026年7月5日追記:
築地活版が大正から昭和にかけて時折発行していた『活字と機械』をよくよく見ると、15ポイント半と15ポイントが共に本件

*1:築地三号細仮名の、デビュー当時の呼び名は「新調三号和文仮名」でした。参考:「築地活版『新調三號和文假名文字體鑑』の変体仮名を読んでみる」https://uakira.hateblo.jp/entries/2010/11/27
*2:残念ながら「小宮山博史文庫仮名字形一覧」はシステム構築時の都合により代表字形以外を切り捨てているので、別字形を確認したい場合は原本に当たる必要があります。



















