2023年12月の関西蚤の市で貴重なピンマーク入り活字を入手された書体賛歌さん(https://twitter.com/typeface_anthem/status/1730789514292101371)から、先日「盛功合資会社または合資会社盛功社活版製造部のものではないかと思われる「NAGOYA 青 SEIKOUSHA」ピンマーク入り初号明朝活字について」に記したものとは別に、東京築地活版製造所製と思われる活字をお譲りいただいていました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
今回は、そのうちの東京築地活版製造所製Ⓗピンマーク入り活字に関する覚書です。
書体賛歌さんからお譲りいただいた「一」「○」「◆」の3本を含めて合計16本となった東京築地活版製造所製Ⓗピンマーク入り初号フェイス活字のボディサイズは変なところに外れ値らしきものが存在するため、「初号フェイスの大阪青山進行堂製初号ボディ活字・42ptボディ活字・15mmボディ活字」という補助線なしには扱いにくい、そういう資料群となっています。
まずは、「秀英初号明朝フェイスの秀英舎(製文堂)製初号ボディ活字と42ptボディ活字」の時と同じように測定値の一覧表を示しておきます。
文字 | 縦平均 | 横平均 | ポイント換算縦 | ポイント換算横 |
---|---|---|---|---|
正 | 14.819mm | 14.832mm | 42.172pt | 42.209pt |
宮 | 14.853mm | 14.973mm | 42.267pt | 42.609pt |
機 | 14.758mm | 14.779mm | 41.998pt | 42.057pt |
曜 | 14.784mm | 14.831mm | 42.072pt | 42.205pt |
治 | 14.739mm | 14.758mm | 41.944pt | 41.997pt |
票 | 14.735mm | 14.715mm | 41.933pt | 41.875pt |
費 | 14.769mm | 14.768mm | 42.029pt | 42.025pt |
金 | 14.824mm | 14.833mm | 42.186pt | 42.211pt |
初 | 14.808mm | 14.783mm | 42.139pt | 42.068pt |
年 | 14.860mm | 14.827mm | 42.289pt | 42.193pt |
黴 | 14.770mm | 14.768mm | 42.031pt | 42.027pt |
健 | 14.910mm | 14.811mm | 42.429pt | 42.148pt |
協 | 14.802mm | 14.827mm | 42.123pt | 42.195pt |
一 | 14.824mm | 14.859mm | 42.186pt | 42.285pt |
○ | 14.776mm | 14.767mm | 42.048pt | 42.022pt |
◆ | 14.865mm | 14.826mm | 42.303pt | 42.191pt |
青山進行堂と同様に分布図を作成すると、外れ値の度外れ具合が分かります。
参考に、青山進行堂の分布と築地活版の分布を重ね合わせた分布図も作成しました。
「外れ値」と見做した活字の度外れ具合は非常に大きいのですが、その一方で、青山進行堂と比べてサンプル数が少ないからという理由だけか、本来の築地活版で許容される寸法の誤差(公差)が小さかったと見るべきか、築地初号ボディと42ptボディの寸法の分布は、比較的狭い範囲に収まっているように見受けられます。
さて、ここからは妄想に域になるのかもしれないのですが。
築地活版の「宮」は縦方向が「築地初号ボディ」の上限よりの寸法で、横方向が「15mmボディ」の許容範囲になっているようです。また「健」は縦方向が「築地初号ボディ」の上限を超えているものの「15mmボディ」までには至らない寸法で、横方向が「築地初号ボディ」の中央値よりやや小さい寸法になっているようです。
関東大震災で物的にも人的にも大きな損害を受けた東京築地活版製造所では、製品のQCに関するノウハウが十分に継承されない状態のまま経営陣が新しい活字規格(ミリメートルボディ)を打ち出したことによって現場レベルでの混乱の度合いが増し、良質な製品を製造する工場としての再起を図れなかったことから解散を選ばざるをえなかったのではないか。
――そんなことを想像させられる計測結果でした。