日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

「大阪毎日新聞」に見える東京築地活版製造所の9ポ・8ポ半明朝活字

これもまた「「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」と東京築地活版製造所の10ポ・9ポ半明朝活字」に続いて、またまた、「新聞活字サイズの変遷史戦前編暫定版」「大正中期の新聞における本文系ポイント活字書体の変遷(暫定版)」を補足する、築地活版の初期ポイント活字の話です。

5月の記事「中央新聞が明治38年に本文活字として採用した東京築地活版製造所の9ポイント明朝活字」の後半、「仮称「前期9ポイント仮名」と仮称「後期9ポイント仮名」」の項に記した通り、築地活版の9ポイント明朝活字については明治39年版『九ポイント明朝総數見本 全』(印刷図書館蔵)と、昭和4年版『九ポイント活字総數見本 全 昭和四年五月改正』(横浜市歴史博物館小宮山博史コレクション)という2つの総数見本が知られています。

一方、9.5ポイントや8.5ポイントの活字見本は『改正定価表各書体見本』(「大正7年2月24日改正」:印刷図書館蔵 Za335、および「大正9年3月10日」:印刷図書館蔵 Za341)に掲載されている部分的なものしか手がかりが無い――少なくとも現時点で私は記憶にない――状態です。

(9月18日追記:桑山書体デザイン室KD文庫に、東京築地活版製造所『大正五年六月改正 新聞用 九ポイント半(小型五號)總數見本 全』があり、また同じく『昭和二年四月改正 八ポイント半活字總數見本 全』が蔵されていることを、まるっきり失念していました。)

『改正定価表各書体見本』(印刷図書館蔵)より「仮名付活字」見本部分

16字ベタ組の「九ポイント仮名付」と17字ベタ組の「八ポイント半仮名付」がほぼ同じ行長になっているので、表題通りの活字ボディーに鋳込まれているようですが、例示されている仮名の種字・母型は同じものなのではないかという風に見えます。

実際のところはどうだったのでしょう。

大正3年10月22日付『大阪毎日新聞』原紙の本文9.0pt明朝活字のひらがなと、大正6年11月13日付『大阪毎日新聞』原紙の本文8.5pt明朝活字のひらがなを、拾い出してみましょう。

大正3年10月22日付『大阪毎日新聞』原紙と大正6年11月13日付『大阪毎日新聞』原紙(部分・重ね合わせ)
大正3年10月22日付『大阪毎日新聞』に見える築地9ポ明朝ひらがな

大正3年10月22日付『大阪毎日新聞』原紙の本文9.0pt明朝活字のひらがなは、明治39年版『九ポイント明朝総數見本 全』(印刷図書館蔵)に見える「前期9ポイント仮名」と言って良いようです。

大正6年11月13日付『大阪毎日新聞』に見える築地8ポ半明朝ひらがな

9ポイントと見比べると、「あ」「か」「な」のように、原寸で見比べれば、やや縦長の9ポと比較的扁平な8ポ半――という違いが見える字種があるほか、「そ」「た」「の」のように原寸でも判別が難しい字種、これらが大半を占め、印刷コンディションが万全であればマイクロ資料でも識別できる(現時点で)唯一の字種が「う」ということになりそうです。

参考に、同一縮尺で拡大した築地10ポ、9ポ半、9ポ、8ポ半で「あなたのうそ」という文字列を並べてみます(文字の周囲は各々の活字ボディーに相当する大きさで切り抜いたもの。文字の並べ方はすべて中心間隔10ポイント。)

『大阪毎日新聞』に見える築地10ポ、9ポ半、9ポ、8ポ半のひらがな見本