日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

国会図書館デジタルコレクションを素材に明治大正期の出版史や印刷史を調べるために都道府県単位で「出版地」を絞り込みたい場合は

昭和18年の『日本目録規則https://dl.ndl.go.jp/pid/1122648/1/22や『日本目録規則 1952年版』https://dl.ndl.go.jp/pid/2932039/1/27以来の規則により、出版者の所在が「町村」の場合や同名弁別のために都道府県名等が付記される場合を除いて、「市」名しか記載されないことに注意が必要。

――ということに、「『日本』紙や『国家経済会報告』等に見える謎の五号仮名」の記事で「出版地:山形」から順に「宮城」「福島」「群馬」「栃木」「茨城」「徳島」「愛媛」「高知」「和歌山」「三重」と検索していって、更に「青森と秋田の「謎五号」用例」を探してみた際にうっすらと気がつきつつあったのですが、個人的な興味のために岩手を念入りにやっていく途中で明確に理解しました。

道府県名と道府県庁所在地の都市名が異なる場合(例えば仙台市)や、道府県庁所在地に匹敵する有力都市がある場合(例えば郡山市高崎市)、両方に該当するケース(札幌市、函館市小樽市室蘭市旭川市釧路市)等を地域ごと時代ごとに勘案して「出版地」の検索条件を工夫してみないと大きな見落としが生じてしまいそうですね。

日本目録規則による「出版地」の記載(市名には原則として都道府県名が併記されない)

例えば、「出版年月日:明治20年 月 日~29年 月 日」の期間に群馬県内で発行された(国会図書館デジタルコレクションの館外閲覧可能な資料)を総当たりしたいという場合。「出版日:古い順」リストを見ると:

「出版地:群馬」での検索結果は140件でトップが『近世沼田猫々伝』(明治20年8月刊)
「出版地:前橋」での検索結果は108件でトップが『群馬県事要覧』(明治20年12月刊)
「出版地:高崎」での検索結果は47件でトップが『英国憲法之真相 第1巻』(明治20年7月刊)
――という具合に、日本目録規則から予想される通りの検索結果が出てきます。念のため上記条件の一番古い資料の書誌事項を確認してみると:
『近世沼田猫々伝』の出版地は「沼田町(群馬県)」
群馬県事要覧』の出版地は「[前橋]」
『英国憲法之真相 第1巻』の出版地は「高崎」
――と、日本目録規則が指示している通りに記載されていることが判ります。

調べたい時代(期間)に対象地域に存在する市を知りたい場合

ISHIDA Satosi氏の「市一覧表」という便利なサイト(http://www.tt.rim.or.jp/~ishato/tiri/cities/cities.htm)があることを知りました。痒いところに手が届く感じでとても便利。マジ感謝。 ――と言ってこの覚書を終わらせたいところだったのですが。 同サイトによると東群馬郡前橋町が前橋市になるのが明治251892年4月1日で、群馬郡高崎町が高崎市になるのが明治331900年4月1日。 ――なのに、NDLの書誌では明治20年に発行された出版物の書誌事項で都市名として「前橋」や「高崎」とだけ記載されている。

国会図書館の蔵書に付された「出版地」の都市名情報の揺らぎはどのように考えたらよいのか

  • 1948年10月10日に市制移行した旧栃木県上都賀郡鹿沼町も、「鹿沼町 (栃木県)」と「鹿沼」は市制移行を機に切り替えられている模様。
  • 1948年4月1日に市制移行した旧北海道勇払郡小牧町も、出版点数がだいぶ少ないものの、「苫小牧町(北海道)」と「苫小牧」は市制移行を機に切り替えられている模様。
過去資料の書誌における「出版地」の記載に統一的なルールは無いので思いついたキーワードを一通り試さなければならない、――ということになってしまうのでしょうか。