先日の「宮澤賢治『春と修羅』初版(関根書店、大正13〔1924〕)各本の様々な込物飛び出し跡とTypographic errorなど」(2025/09/22)に記した通り、「宮澤賢治『春と修羅』初版本に使われている活字のうち盛岡の山口活版所から買い足されたものを想像する(前篇)――大正末の山口活版所の仮名活字はどのようなものだったか――」(2025/02/16)と「宮澤賢治『春と修羅』初版本に使われている活字のうち盛岡の山口活版所から買い足されたものを想像する(後編)――大正活版所(吉田印刷所)の規模感と漢字活字セット――」(2025/02/23)を書いた後になってようやく、『校本 宮澤賢治全集 第二巻』(筑摩書房、
宮澤賢治『春と修羅』初版本(関根書店、大正13〔1924〕)の組み方
「校本全集」に記されている組み方
さて、『校本 宮澤賢治全集 第二巻』「校異」によると、『春と修羅』初版本の体裁は次のようになっています(『S48校本』263頁〔箱・表紙・奥付の情報は割愛〕)。
内容は、見返しの次に薄紙一枚のあと、本文と同じ紙の本扉(縦に十三本の細罫(長さ104mm 間隔7.9mm)を引いた上に
心象スツケ チ (四号活字)
春 と 修 羅 (三号活字)
大正十一、二年 (三号活字)
と印刷してある。裏は白)、「序」六頁(ノンブル3~8)、以下本文三〇一頁(中扉八丁十六頁を含む。本文は十二行一段組、五号活字で字間四分。題名は八字下ゲで四号活字。中扉章題名は三号活字。中扉にはノンブルがなく、本文ノンブルはあらためて3からはじまって301まで。301裏は白)、「目次」八頁(ノンブルなし。「目次」という文字は三号活字、章題名は四号活字、詩篇題名は五号活字)、奥付一頁(裏罫の枠内に次の内容が印刷されている。検印は朱肉)、
これが『【新】校本 宮澤賢治全集 第二巻 詩Ⅰ校異篇』「校異」によると、『春と修羅』初版本の体裁は次のようになっています(『H7新校本』5頁〔箱・表紙・奥付の情報は割愛〕)。
内容は、見返しの次に薄紙一枚のあと、本文と同じ紙の本扉(縦に十三本の細罫(長さ104mm 間隔7.9mm)を引いた上に
心象スツケ チ (四号活字)
春 と 修 羅 (三号活字)
大正十一、二年 (三号活字)
と印刷してある。裏は白)、「序」六頁(ノンブル3~8)、以下本文三〇一頁(中扉八丁十六頁を含む。本文は十二行一段組、五号活字で字間四分。題名は四号活字で、「春と修羅」の章から「小岩井農場」の章までは本文活字で六字(分強)下ゲ、「グランド電柱」の章以降は八字(分強)下ゲ。但し、「春と修羅」の章の第二折(九~一七頁。詩篇「コバルト山地」から「春光呪〔詛〕」まで)は八字(分強)下ゲ。また、「無声慟哭」の章の「松の針」及び「オホーツク挽歌」の章の「オホーツク挽歌」のみは六字(分強)下ゲ。中扉章題名は三号活字。中扉にはノンブルがなく、本文ノンブルはあらためて3からはじまって301まで。301裏は白)、「目次」八頁(ノンブルなし。「目次」という文字は三号活字、章題名は四号活字、詩篇題名は五号活字)、奥付一頁(裏罫の枠内に次の内容が印刷されている。検印は朱肉)、
このように、基本の情報について『S48校本』が踏襲されつつ、『H7新校本』では題字の組み方に関する情報が大きく増えていました。『H7新校本』の記載はじゅうぶん素晴らしいのですが、自分なりの観点で「#組版書誌 ノオト」を追記しておきたいと思います。
『春と修羅』初版本文の組み方――字間・行間のアキと最大版面を探る
この項は、国会図書館デジタルコレクションの画像(https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/2、以下「国会デジコレ」)と、早稲田大学図書館古典籍総合データベースの画像(https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko03a/bunko03a_00851/index.html、以下「早大古典籍DB」)、高知市民図書館近森文庫本の国書データベース画像(https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/300004580/1?ln=ja、以下「国書DB高知近森」)、そして
日本近代文学館による精選名著復刻全集の影印版(https://www.bungakukan.or.jp/publication/pub_list/、以下「精選復刻」)に基づきます。
「序」の末尾、著者名が行末まで下げて組まれている箇所を、まずは最大行長の候補と見てみましょう。

本文は五号活字で字間四分、行間が五号全角で1頁12行1段組。行頭から著者名末尾「治」まで五号29.5倍。――となっています。
この「五号29.5倍」の升目を当てながら本文を読み進めていくと、版面がタテ五号31倍となっているところが8ページほど見つかりました。

- 「蠕蟲舞手」60頁7行目および11行目(国会デジコレ https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/36)
- 「小岩井農場」パート三82頁4行目(国会デジコレ:https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/47)
- 「マサニエロ」171頁4行目(国会デジコレ:https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/91)
- 「無聲慟哭」190頁後から4行目(国会デジコレ:https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/101)
- 「白い鳥」201頁2行目(国会デジコレ:https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/106)
- 「青森挽歌」213頁5行目・7行目・8行目(国会デジコレ:https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/112)
- 「オホーツク挽歌」228頁最終行および229頁最終行(国会デジコレ:https://dl.ndl.go.jp/pid/979415/1/120)
このうち「小岩井農場」パート三82頁4行目、「白い鳥」201頁2行目、「青森挽歌」213頁7行目の3箇所は字間のアキが一部ベタ(アキ無し)になるよう調整して全体を五号31倍に収めてあるので、印刷上の制約からタテ五号31倍が最大値なのであろうと思われます。
またこのうち「白い鳥」201頁は1行目にルビが付されているため、縦ヨコ共に最大となる版面になっています。

このように『春と修羅』初版「白い鳥」201頁は、私の用語で言う「本版面」が(https://x.com/uakira2/status/889846945342078976)、タテ五号31倍で、ヨコ五号23倍半。同じくノンブル領域を含む「総版面」はタテ五号34倍程度。
『春と修羅』初版に見える三号活字・四号活字の大きさと詩題の組み方
『春と修羅』初版の本扉に先ほど図解した「想定本文組」のマス目を当てはめてみると、初版本の印刷に使われた三号活字と四号活字の(五号活字に対する)相対的な大きさが概ね判明しました。

五号31倍(五号全角ベタ31字分)の行長と四号24倍(四号全角ベタ24字分)の行長がほぼ同じ(四号活字は五号活字の約1.29倍)――五号31倍と四号24倍は厚紙1枚か2枚程度は違うかもしれません――、五号30倍(33倍)の行長と三号20倍(22倍)の行長がおそらく同じ(三号活字は五号活字の1.5倍)――薄紙程度の違いがあるかもしれません――。
本扉の「心象スツケチ」は四号3字サゲで始まり、四号活字・二分アキ組。「春と修羅」は三号4字サゲで始まり、三号活字・一倍+二分アキ組。「大正十一、二年」は三号11字半サゲで始まり、三号活字・四分アキ組(読点は四分サイズを字間に配置)。
罫線の長さは「本版面」の最大行長である五号31倍より五号四分から二分程度短いくらいかと思われ、また罫線の間隔は五号二倍と同等か五号一倍+八分の七程度かと思われます。
詩題「くらかけの雪」
四号活字のサイズ感の検証を兼ねて、詩題「くらかけの雪」の組み方を見てみます。

本扉のサイズ感でマス目を当ててみたところ、四号6字サゲで始まり、四号活字・ベタ組で「くらかけの雪」――と見て間違いないようです。


