日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

勧工寮の五号仮名

2018年5月に横浜開港資料館でお話しさせていただいた「近代活字と明治の横浜」関連公開講座第1回「活字と活字見本帳の語るもの」のために東北大学附属図書館所蔵の『東京日日新聞』原紙をコピーして私製していた勧工寮の五号仮名一覧に、横浜市歴史博物館小宮山博史コレクションの東京日日新聞原紙を用いて「わ」「ゐ」を補ったものになります。

明治6年の『東京日日新聞』に基づく勧工寮五号仮名

『京橋の印刷史』巻末年表では明治六年「四月 勧工寮、活字販売新聞広告。」とだけ書かれているのですが(654頁下段:https://dl.ndl.go.jp/pid/12047860/1/394)、これは『東京日日新聞』4月26日(353号)から29日(356号)まで4日連続で掲載されたもの。東日では広告のことが当時「報告」と称されていました。

毎日新聞百年史』の「勧工寮と東京日日新聞」の項に「日新真事誌の二月十八日号付録の引札の欄に次の広告がある」として勧工寮による活字販売広告のことが書かれている通り(432頁中段:https://dl.ndl.go.jp/pid/12277848/1/456)、私がいま確認できた範囲ではこれが勧工寮活字の最初の広告になるようです(広告文の引用は「百年史」ではなく『日本初期新聞全集』の『日新真事誌』から)。

鉛製活字大 二分五厘方 一字代金壹
錢壱厘○同中 竪二分五厘橫二分 同
八厘五毛○同 二分方 同八厘○同小
 一分二厘五毛方 同七厘○同振仮名
 六厘二毛五弗方 同四厘五毛
右漢字假名句切等應需候事 勸工寮

「百年史」432頁下段に「勧工寮は改めて活字払下げの計画を立て、当時広告を載せる余地のあった日新真事誌に連日のように広告した」と書かれている通り、『日本初期新聞全集』で見た限り明治6年2月18日号付録から3月9日号付録まで毎日同じ内容の広告を掲載し続けていました。

「小」とされている縦横「一分二厘五毛」の活字が寸法的にいわゆる五号活字に相当するものになりますが、明治6年の段階で対外的に販売を行う際に「大」「中」「小」という呼び名を用いたようです。印書局内では明治6年頃の段階でも「四号」「五号」等と呼んでいたことが、「活字台場並植立所営繕伺」によって判りますhttps://www.digital.archives.go.jp/img/3041714

明治6年4月末に東日で展開された勧工寮活字広告でも活字の種類と価格は『日新真事誌』掲載広告と同じ内容でしたが、「百年史」には『明治官制辞典』記載の情報として明治6年「五月十九日活字製造にて、広く製造品を販売せんため、字形の大小により値段を定めた(二号九厘、三号八厘、五号三厘)」と書かれています(432頁下段)。『明治官制辞典』131頁下段の「勧工寮」の項には確かに「五月一九日活字製造にて、広く製造品を販売せんため、字形の大小により値段を定めた(二号九厘、三号八厘、五号三厘)」とあります(強調引用者、https://dl.ndl.go.jp/pid/11897355/1/71)。この5月の件は「辞典」の参考文献のうち明治20年版「印刷局沿革録」こと『太政官沿革志三十三 印書局沿革』https://www.digital.archives.go.jp/img/652764には見当たらないのですが、同じく参考文献である明治22年版『工部省沿革報告』の方に出ています(684頁:https://dl.ndl.go.jp/pid/784455/1/365)。残念ながら国立公文書館デジタルアーカイブでも国会図書館デジタルコレクションでも『工部省沿革報告』の元となったであろう資料は探し出せず、明治6年5月の価格決定時の内部文書で「二号・三号・四号」と記していたか「大・中・小」だったかは判りません。

「百年史」432頁中段に「西田は辻家の恩に酬いる方法も講じていた。それは辻家を勧工寮の活字の売捌元にしたことである。明治六年六月十九日付の東京日日新聞で、この広告を掲載している」とあるように、勧工寮との連名になるような形の広告が掲載されていました。

鉛製活字
 大 二分五厘方  一字代金九厘
 中 竪二分九厘
   橫二分    同   八厘
 小一分二厘五毛方 同   三厘
右漢字假名句切等應需多少拂下候

             勸工寮
前條ノ活字拙店ニ於テ賣捌ノ許可
ノ得候ニ付右ノ定價ニテ差上候也
       元大坂町貮番地
          辻 金太郎

『日本初期新聞全集』で見た限り、他の日付や他の新聞には出稿されなかったようです。5月に決定した価格通りの金額で6月に売り出したということは分かりましたが、「中」活字のうち長体の活字サイズが変わってしまったように見えるのは、誤植と思っていいでしょうか。また「中」活字の正方形のものは売り出しをやめてしまったのでしょうか。勧工寮活字については、まだまだ分からないことばかり。