日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

朱奇齡『続文献通考補』の序文を見るため中国国家数字图书馆のユーザ登録を試み「馆际互借与文献传递服务平台」で挫折中

匠体字としての「宋字」の件で薛煕『明文在』の(錢大鏞らが記した)凡例について、史梅岑『中國印刷發展史』よりも丁寧に典拠資料にあたったものと思われる国慶著・沢谷昭次訳註『漢籍版本入門』(研文出版 研文選書191984)は、『明文在』凡例の話題に続けてこのように記しています(110頁)。

ここでいう“宋体”というのは、実は宋代の字体ではない。
というのは、ここでいう“宋体”は、明の隆慶・万暦年間の人々が創り出したもののことで、後世の人々がこれを“明朝の字”とよぶことになってしまったもの(明匠体)のことなのである。
(この意味での宋字ないしは宋体については、)さらに、清の康煕十二年(一六七三)に、宮廷の臣に勅命して、経廠本の『文献通考』の脱落部分を補刊させたが、そこに付けられた序文には、ついに明白に次のような規定が述べられている。

これより後の刊行書では、すべて方体(四角い整った字体)はいずれも宋字とよぶ、楷書はいずれも軟字とよぶ。
〔此後刻書、凡方体均称宋字、楷書均称軟字。〕

ここはぜひとも、該当する「文献通考」に当たってみたいものです。

手はじめに参照してみた東洋史研究会編『文献通考五種總目錄』(東洋史研究会、1954)に掲載されているのは、『文獻通考』『王圻續文獻通考』『欽定續文獻通考』『欽定皇朝文獻通考』『皇朝續文獻通考』(表記は「総目録」による)の五種でした。「総目録」が記している各々の記載年代と、ウェブで参照できる資料を補記しながら並べてみると、次のようです。

  • 馬端臨『文獻通考』記載年代:上古至宋寧宗〈開禧3/1207〉
  • 王圻『續文獻通考』記載年代:宋寧宗至明萬暦、コトバンク経由ブリタニカ国際大百科事典概説「万暦 14 (1586) 年に成る。」
  • 『欽定續文獻通考』記載年代:宋寧宗至明末〈1644〉、中文维基百科概説「清張廷玉等奉敕撰,後嵇璜、劉墉等奉敕撰,紀昀等校訂,成書於乾隆四十九年(1784年)」
  • 『欽定皇朝文獻通考』記載年代:清初至乾隆50〈1785〉、中文维基百科概説「乃清高宗乾隆十二年(1747)欽命編撰,乾隆二十六年完成。」
  • 皇朝續文獻通考』記載年代:乾隆51至光緒〈1908〉、中文维基百科概説「初稿原寫到光緒三十年(1904年),320卷,辛亥革命以後,續寫至宣統三年(1911年)」

これは、実際に刊行されかつ日本にも存在するので参照しやすいものということになるのでしょうか。「康煕十二年(一六七三)に、宮廷の臣に勅命して、経廠本の『文献通考』の脱落部分を補刊させた」という由来に該当しそうな「文献通考」が見当たりません。


程千帆・徐有富『校讎廣義 版本編』(斉魯書社、1991/修訂本:中華書局、2020)によると、「此後刻書,凡方體均稱宋字,楷書均稱軟字」というのは陶湘『清代殿版書始末記』(ママ)に出ているもののようで、前後を含めると次のように記されているとのこと。

康煕一朝,刻書極工,自十二年(一六七三)敕廷臣補刊經廠本《文獻通考》脱簡、冠以御序。此後刻書,凡方體均稱宋字,楷書均稱軟字(見《大清會典》),雖雜出衆手,必斠若劃一。

民國27年〈1938〉鉛印の国会図書館本『陶氏編刊書目』第二冊(https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2568848)を見ると、確かに陶湘『清代殿板書始末記』の最初のページに、上記のように書かれています(陳国慶著・沢谷昭次訳註『漢籍版本入門』にも、この情報の由来を記して欲しかったですね)。

機械翻訳の力を借りると、どうも〈康煕十二年に勅命で補刊された『文献通考』の序文で「これより後の刊行書では、すべて方体はいずれも宋字とよぶ、楷書はいずれも軟字とよぶ」と記された〉という記述自体を陶湘『清代殿板書始末記』は「見《大清會典》」つまり「『大清會典』によると」という書き方をしているようです。

そのような情報が記されていそうな『大清會典』、なかなか見つけられずにいます。ご存じの方、お教えくださると嬉しいです。


ともあれ、康熙帝の時代に補刊されたものだとされる「文献通考」の情報も、探しておきましょう。

南開大学文学院の杨琳教授(https://wxy.nankai.edu.cn/2019/1101/c18320a244217/page.htm)による『古典文献及其利用』(北京大学出版社、2004初版)は順調に版を重ね、2021年に第5版となっているようなのですが。
Googleブックスで内容を検索できる初版および第4版には「康熙时朱奇龄又撰《续文献通考补》48卷,补充王书,但仅有抄本,未尝刊行。」と書かれています。

機械翻訳の力を借りつつ私訳してみると、次のような内容である模様。
康熙帝の時代に朱奇齡による『続文献通考補』48巻があり、これは王氏の書〈王圻『続文献通考』〉を補足するものだが、Handwritten copy〈稿本〉しか無く、刊行はされなかった。」

可能性がある図書館のWeb OPACを幾つか検索してみたところ、北京の国家図書館(中国国家図書館)が、この「抄本 = Handwritten copy」を所蔵しているようです(題名を「續文獻通考補」にすると検索結果に出現します:http://find.nlc.cn/search/showDocDetails?docId=-2619146334735938419&dataSource=ucs01&query=%E7%BA%8C%E6%96%87%E7%8D%BB%E9%80%9A%E8%80%83%E8%A3%9C)。他の館は所蔵していないようで、なるほど「但仅有抄本,未尝刊行」なのだなと頷けます。


日本の国会図書館の「リサーチ・ナビ」に「複写サービス:海外の図書館の複写サービスのご案内:中国国家図書館」という2019年6月現在での利用案内がある(https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-copyinfo-chn.php)のですが、これは複写依頼を取り次ぐことが出来ないので各人で中国国家数字図書館にユーザ登録してね、と書かれているものでした。

試しに上記「ユーザ登録手順」を見ながら手続きを進めてみたところ、4番目の入力フォームで表示されるウィジェットが中文ではなく英文で表示されてくれる以外は「2019年6月現在での利用案内」通りに進行しました。

そこで登録ユーザでログインして「文津捜索」で『續文獻通考補』を検索。「文献传递」ボタンを送信すると出てくる「馆际互借与文献传递服务平台」の入力フォームを前に、いま、立ち止まってしまっているところです。

「Certificate ID」が空欄というのが許容されない様子。

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中国国家図書館「馆际互借与文献传递服务平台」の入力フォーム

ううむ。どうしたものか。