日本語練習虫

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#組版書誌ノオト(番外編1)昭和新編真宗聖典

味岡伸太郎書体講座』(asin:9784901835466、以下『書体講座』)164-166ページ「活字の時代にも詰め組はあった」で言及されている『昭和新編真宗聖典』を佐賀県立図書館からの相互貸借で閲覧させていただいた。

編集・発行は仏教婦人会仏教青年会連合本部で、印刷者は京都市北小路通新町西入の須磨勘兵衞。初版は昭和4年3月15日付での発行で、佐賀県立図書館本は昭和5年5月10日付の第15版。

『書体講座』にはこの『昭和新編真宗聖典』第1編14「御文章」から191ページの画像が掲げられている。

当該ページに見られる通り、漢字は9ポ全角のままで、仮名と句読点が本来の活字の上下を削って扁平ボディーに作られた形になっている。書体としては「築地電胎9ポ」のようである。よく見ると「略りやく」「願ぐわん」など漢字1字に3字分のルビが収められていることや、冒頭の「抑そも〳〵」のルビが読点にかからずに処理されていることなどが、ここに使われている活字が「9ポイント仮名付」であることを示している。

『昭和新編真宗聖典』第1編に収められている経典(例えば仏説無量寿経)の組み方を見ると、9ポ2分アキ、23字詰12行、句読点およびルビのブラ下げありで、版面は幅約70mm・高さ約107mm(+ブラ下げ)。9ポの漢字に対してルビ活字が4ポ半より大きく、親文字と微妙にズレながら組まれている。経典部分は「仮名付」活字ではなく、おそらく9ポの漢字に対して七号(5ポ25)のルビ活字と五号4分のインテルを用いて組んだのだろう。この場合版面の幅は199ポ875で、70.2mm程となる。ブラ下げを除く行長は9ポ34倍(306ポ)で107.5mm。

「御文章」などに見られる、9ポ系の漢字仮名交じり文は、字詰め不定13行、句読点などのブラ下げ無しで、版面は幅約70mm・高さ約110mm。「仮名付」活字であるため幅が13ポ半(9ポ+4ポ半)の活字と六号(7ポ75)4分のインテルを用いて組んだものでのようで、この場合版面の幅は198ポ75(約69.8mm)。

仮名文字がなるべく多数連続する箇所を計ってみたところ、仮名の縦方向は7ポ25程度と考えられた。9ポに対する80%であれば7ポ20であり、コンマ05ポイント(コンマ02mm弱)大きい。込め物の調整を考えれば9ポに対する75%(6ポ75)程度まで扁平率を高めたかったのかもしれないが、おそらくそれでは文字面が途切れてしまう割合が無視できないほど大きく、80.5%ほどの扁平率に留めたのだろう。

9ポと7ポ25の差である1ポ75という数値を考えてみると、これは7ポ4分に相当する(1.75✖️4=7.0)。手持ちの活版材料で行長をコントロールする、そのために扁平率を区切りのいい「9ポ80%=7ポ20」とせずに、「9ポ80.5%程=7ポ25」としたものと考えられる。

とすると行長は9ポ35倍=7ポ45倍(315ポ)で110.7mm程度ということなのであろう。

このような精密な活字サイズのコントロールが「9ポ活字の削り」によって実現できるとは考えにくく、これは9ポ母型(9ポ仮名付母型)を用いて最初からタテ7ポ25・ヨコ13ポ半(9ポ仮名付:9+4.5=13.5)に鋳込んだ仮名活字を使ったものと見てよいだろう。

おそらく句読点の扁平度合いも、漢字仮名交じり文を組む際の込め物に7ポ系しか使わなくて済むような値に設定されているのだろうと思われるが、十分に解析できるだけの能力と材料が乏しく、未詳である。