明治期における裏表紙のパブリッシャーズ・マークと活版(電気銅版)見本
神保町のオタさんから『近代出版研究 第3号』(皓星社、2024.4 https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774408200/)をご恵贈いただきました。改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
以前twitterにて、顕道書院と積善館のパブリッシャーズマークが同じ鳳凰の絵柄であることについて、リボンを咥えた鷲の絵柄をアメリカの印刷会社がカタログに載せているような、共通の祖型があるのではないかという話をお返ししていました。
――というわけで、早速「明治期における裏表紙のパブリッシャーズ・マークに関する一考察」を拝読しました。例の鳳凰の絵柄を共有しているのが2社ではなく金刺芳流堂を加えた3社だったことが明らかにされるなど、2019年の「戦前期における裏表紙に刷られた出版社ロゴマークの美学」や「裏表紙の社章から見た金港堂と博文館」以降、深く静かに掘り下げられていたのですね。
ちなみに、「共通の祖型」があり得たこととして念頭にあったのは、東京築地活版製造所『活版見本』(明治36年)にて電気銅版(ELECTRO-BLOCKS)として掲載されている、様々なコスチュームの人物がBillboardを掲げている図柄でした。電気銅版No.5111(ターバンを巻いた人物 https://dl.ndl.go.jp/pid/854017/1/202)が、明治22年4月25日付『時事新報』掲載自社広告に使われただけでなく、同年8月2日付『時事新報』で「中立社開業」広告に使われたという事例です。こういう濃い図柄が汎用のひながたとして使われ得たのです。
出版者軸と印刷者軸でパブリッシャーズ・マークを整理
読了後、これはやっぱり出版者軸と印刷者軸の2元で整理してみたら更に面白くなるんじゃないかと直感し、「例の鳳凰」に関係する印刷者の周囲を掘り拡げてみました。何と言っても、従来は「出版者(発行者)」しかキーワードに指定できなかった国立国会図書館デジタルコレクションの検索が、2022年12月アップデート時の全文検索機能によって大幅に強化され、かつて夢に見ることしかできなかった「印刷者名」でキーワード検索できるようになりましたからね!
以下に掲げるマークはすべて国立国会図書館デジタルコレクションのものを「100%」表示したスクリーンショットを元画像として「はてなフォトライフ」に登録し、この記事中では幅200px表示としたものです。マーク画像のリンクを辿ると、フォトライフでの元画像表示になります。
スマホ版サイトとして閲覧いただく場合に以下のマーク画像が表示されないようです。恐れ入りますがPC版サイトとしてご覧くださいますよう、お願いいたします。
金刺芳流堂のパブリッシャーズ・マーク | |
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偉業館(岡本偉業館)のパブリッシャーズ・マーク | |
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大阪交盛館(武田交盛館)のパブリッシャーズ・マーク | |
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矢野松吉 |
開成舎のパブリッシャーズ・マーク | |
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浜本明昇堂のパブリッシャーズ・マーク | |
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学友館のパブリッシャーズ・マーク | |
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大阪島之内同盟館のパブリッシャーズ・マーク | |
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もし活字見本帖の類にパブリッシャーズ・マークと共通する電気銅版を見つけることがあれば、改めてご報告申し上げたいと思います。
2024年4月14日追記:
偉業館が発行した近藤延之助著『実地活用明治新用文』(https://dl.ndl.go.jp/pid/866533/1/124)と、交盛館が発行した木村定良編『掌中類題草野集 増訂 (歌学全集 ; 第8編)』(https://dl.ndl.go.jp/pid/873535/1/114)ほか、更に開成舎が発行した片桐猪三郎編『山内公武功伝』(https://dl.ndl.go.jp/pid/782134/1/59)や片桐仲雄編『土藩大定目』(https://dl.ndl.go.jp/pid/787028/1/81)ほかに共通する「リースに鳥」のマークですが、よく似た形状のものが秀英舎製文堂『活版見本帖』(明治36年)に掲載されていることに気がつきました(https://archive.org/details/seibundo1903specimen/page/n201/mode/2up)。
また、交盛館発行で一覧表に掲載しなかった河合寿造著『日用料理の仕方』(https://dl.ndl.go.jp/pid/849124/1/82)の「玉飾り」も、よく似た形状のものが秀英舎製文堂『活版見本帖』(明治36年)に掲載されていることに気がつきました(https://archive.org/details/seibundo1903specimen/page/n203/mode/2up)。
どちらかが相手を模倣したものなのか、双方に共通する別の祖型があったものなのか、知りたいところです。