日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

Type、書体、Style、書風、Taste

先日の書体と書風の件、続き。
FeZnさんの「リュウミンとヒラギノの哲学を垣間見る」における、リュウミンUがLからHまでのウエイトのTypefaceと違ふ「印象」であることを語るための言葉。
下記リョービ本明朝において、LとMで打ち込みの初めの箇所やハネの末尾などの処理に共通点があり、BとXBで同じ部分の処理が互いに共通するものの、L・M組とB・XB組とでは違ふ「印象」であることを語るための言葉。

またMにおいてはハネの角度や最終右払いの起筆の位置などが、他のウエイトとは全く異なる個性を持ってゐることを語るための言葉。
さういったことを語る言葉として、己はやはり「書風」が相応しいといふ気がするんだども、「Typeface」とも「Family」ともイコールでは無さげなこの「書風」といふ言葉。

この難儀な「書体」「書風」の語については、古賀弘幸さんが『プラスデザイニング』の「文字。」特集号(2006年Vol.1)に、「書」から「活字」までをひろく見わたしつつ「書体」や「書風」の語をつかった記事を書かれてゐた。

今のところ、「書体」も「書風」も、何がしかの幅を持ったコトバとしてしか使へず、また幅を持ったコトバだから使へる、さういったところがあるんぢゃないかと思ふんだども、どうだらう。

ところで近年、日本語活字Typefaceを分類することを、金属活字史に造詣が深く活字書体設計も手がけて来られた小宮山博史さんが『基本日本語活字見本集成 OpenType版』(asin:4416608276)で試みておられ、また数多くの書籍設計を手がけておいでの祖父江慎さん感性分類による『フォントブック』(「和文基本書体編」asin:4839922055 、「伝統・ファンシー書体編」asin:4839927936)も出たところ。

どちらも明朝体やゴシック体について「モダン」「スタンダード」「オールドスタイル」や「ベーシック」「シンプル」「見出し」とった書体の小分類をおこなってて、トナンさんの例:「図形界・文字門・表意文字綱・漢字目・明朝体科・リュウミン属」にならって云ふなら、「明朝体目・モダン科・ヒラギノ明朝属・ヒラギノ明朝W3種・ヒラギノ明朝W3 Pr6亜種」といったぐあひに「広義の書体=目」から「狭義の書体=種」までの対応(そしてバージョン違ひへの対応)が考へられそうだ。この生物の分類といふのは、リョービ「ナウ」のように、新種の登場によって大分類や小分類を見直す必要が生じる点など、ヒトが「書体」を分類しようとする際にお手本となることが多いように思ふ(生物を分類したいっていふヒトの欲求をうまく利用した方法ってことになるのか)。

モトになるTypeをアレンジして「ソフト」「ハード」といった異なる外形仕上げのTypeface群を商品化したS明朝のような例がある中、先日、タイプバンクが既存行書体と組み合はせて使ふための二種類の仮名書体に「マイルド」「ビター」といふ「味」の違ひで命名したのには、ちょっと目を開かれた思ひ。「マイルド」対「ストロング」とか言ってしまふところを「ビター」。しびれるぜ。さう、これはTasteの違ひなんだよな。

かうしたオモテに出てる動きのかげで、ここ何年か、情報処理学会情報規格調査会の学会試行標準委員会の作業や、画像電子学会第23回VMA研究会での「フォント選択高度化支援のための諸機能に関する検討」など、日本語活字書体の個性の識別・記述・分類に関するディープな研究が進んでゐる様も、活字書体好きの注目を集めてゐるハズ。
特に前者に見られる、日本語活字の「スタイル」を数値で表現できないか考察が進められる2008年の意欲的な取り組みや、2009年に行はれた議論が結実しつつある「書体見本帳の作成指針」に見られる字種選定は、己が白ワニに喰はれながらやってる遊びと違って、とても説得的。

かうした関係者を集めて分類や用語についての座談会が行はれたなら、それはそれは素晴らしく熱いものになると断言できるので、『アイデア』か『プラスデザイニング』か『フォントスタイルブック20xx』がやってくれないかと激しく希望。公開の座談会にして観客席ば設けて己も観戦させて呉れまいか。