日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

秀英舎・製文堂が鋳造した活字のピンマーク

大日本印刷の前身のひとつである秀英舎の名を刻んだ「東京秀英舎」ピンマーク入り活字と、秀英舎の初期の活字製造販売部門であった製文堂の名を刻んだ「東京製文堂」ピンマーク入り活字を入手し大きさと重さを計測してみた話を2023年3月に記していたわけですが(「秀英初号明朝フェイスの秀英舎(製文堂)製初号ボディ活字と42ptボディ活字」https://uakira.hateblo.jp/entry/2023/03/21/225239、その際にとても残念に思っていたのが、本と活字館がオープンし「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」が公開されたのと入れ替わりに、秀英体に関係する話題が発信・記録されていた秀英体サイト(旧:https://www.dnp.co.jp/shueitai/)がひっそりと消え去ってしまったことでした。

実はついさっきまで気づいていなかったのですが、2023年11月27日付で、「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」のコンテンツとして「リニューアル前の秀英体サイト」(https://archives.ichigaya-letterpress.jp/contents/shueitai/)が追加・公開されていたのですね!!!

リニューアル前の秀英体サイトで43回も続いていた不定期連載「秀英体のコネタ」の第12回「ピンマーク!ピンマーク!」(https://archives.ichigaya-letterpress.jp/contents/shueitai/koneta/koneta_050927.html)に、秀英舎・製文堂に関係する、「東京製文堂」を除くおそらく全ての形態のピンマークが見えていてとてもありがたいので、[archive.org]ではなく公式サイトで再び閲覧・言及できるようになった喜びを記しておきたいと思います。

ほんとうにありがとうございます。

というわけで「リニューアル前の秀英体サイト」が運営されていた時点で私が気づいていなかったことを2点ほどメモ。

1. 「生に丸」印のピンマーク

秀英体のコネタ」の第12回「ピンマーク!ピンマーク!」https://archives.ichigaya-letterpress.jp/contents/shueitai/koneta/koneta_050927.html冒頭に掲げられている「生に丸」印の解説文に「ひとつは秀英舎の社章、社名の反切から誕生した「生に丸」印です。」と記されています。

この「生に丸」印の社章あるいは商標について、明治40年版『株式会社秀英舎沿革誌』には特に何も記されていませんがhttps://dl.ndl.go.jp/pid/853985大正11年版『株式会社秀英舎沿革誌』には「社名及商標ノ由来」というコラムがあり「商標ノ字ハ秀英ノ反切ニシテ創業發起人保田久成ノ起案ニ係ル」と書かれていますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/970714/1/3昭和2年の『株式会社秀英舎創業五十年誌』では保田と並ぶ「創業發起者ノ一人」であった「大内青巒カ嘗テ識ストコロノ一文」として「抑モ此擧元來明教社ノ業務ト其經濟ヲ異ニシ予等四人ノ共同經營ニ過キサルヲ以テ別ニ舎名ヲ按シテ秀英舎ト稱シ又秀英ノ反切ナル生ノ字ヲ以テ記號ト爲シタルカ如キハ皆保田君ノ發案ニ係ル所ナリ」と記していますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1464094/1/26

「反切」というのは康煕字典正字通など古い漢字辞典において漢字の読みを示すものだったそうで、例えば内閣文庫本『正字通』では「秀」の反切が「息救」とありますがhttps://www.digital.archives.go.jp/img/4051513 の47/87コマ)、これは「秀」の「シュウ」という読みを①「息」の読みの子音(S)と②「救」(YU)の読みの母音で示す、というもの。

「生」(SEI)という字が①「秀(S)」+②「英(EI)」で示されるという関係なので、「生の字は秀+英を反切とする」という表現になるものと思っていいのかと思うのですが、どのような言い回しが適切なのか、よく分かりません。

商標として登録されたのが明治10年代末のうちなのか、20年代ということになるのか、そのあたりも全く分かりません。また、「大内青巒カ嘗テ識ストコロノ一文」のオリジナルも探し出すことが出来ていません。いつか見つけておきたいと思っています。

2. 丸にサンセリフ体で「S」の意匠

明治37年(1904)1月の『印刷雑誌』14巻1号掲載の広告で活字を立体的なイラストとして示したものhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1499065/1/20がおそらく初出で、14巻5号(]https://dl.ndl.go.jp/pid/1499069/1/18])以降少なくとも明治42年(1909)まで、活字を真横から見た図柄として表現している広告に「サンセリフのS」マークが示されているようです。