日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

#市谷の杜本と活字館 2階の制作室エリア卓上に展示されていた秀英舎・製文堂のピンマーク入り活字

「活字の種を作った人々」展の会期末ぎりぎりになって、ようやく、市谷の杜本と活字館を訪れました。初訪問です。

展示室の隣にある制作室エリアの卓上に「手を触れないでください」という注意書きだけ添えて飾られていたスリムな文選箱3つに、欧文活字5種と「オーナメント活字」、「飾り罫」、「鋳製カット」が無造作に並べておいてあったことに皆さんお気づきだったでしょうか。後で職員の方に伺ったところ、ふだんは1階にあるもので、すべてレプリカではなく本物の活字だということだったのですが――。

2024年5月30日に市谷の杜本と活字館2階制作室エリア卓上に展示されていた文選箱入り活字

「鋳製カット」に含まれていた丸にサンセリフ体「S」のピンマーク入り活字

「鋳製カット」の中の少なくとも1つが、丸にサンセリフ体「S」のピンマーク入り活字だったのでびっくりしました。

「鋳製カット」の1つに含まれていた「サンセリフ体S」の製文堂ピンマーク入り活字
サンセリフ体S」ピンマーク入り活字の文字面を「鋳製カット」集合写真から拡大

もっときちんと接写してくればよかったのですが、文字面をじっくり眺めてみると、これは製文堂『活版見本帖』(明治36年発行)の「畵形」361番ですねhttps://archive.org/details/seibundo1903specimen/page/n147/mode/1up

製文堂『活版見本帖』(明治36年発行)の「畵形」361番
「鋳製カット」集合写真から拡大したピンマーク入り活字の文字面を左右反転し角度とコントラストを調整
調整したピンマーク入り活字の文字面画像を製文堂『活版見本帖』(明治36年発行)の「畵形」361番を重ね合わせ

印刷雑誌』1902年9月号に掲載されている製文堂「新製畵形」広告には316番から339番が新製品として掲載されているのですがhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1499051/1/16、これは内容と番号を保ったまま明治36年版『活版見本帖』に掲載されていますhttps://archive.org/details/seibundo1903specimen/page/n151/mode/2up。つまり361番は1902年10月以降に活字化された「畵形」――おそらく母型は1903年製――と考えてよいでしょう。

私は今のところ「丸にサンセリフ体でS」の製文堂ピンマークは明治37年から42年までの間に使われていたようだと考えておりますので(「秀英舎・製文堂が鋳造した活字のピンマーク」https://uakira.hateblo.jp/entry/2024/03/30/180642、この「畵形」361番活字も、その時期に鋳造されたものが生き残っていたのだと思います。

印刷時に左下の方になるあたりが傷ついて線が欠けていて、同じく右上の線の先端がツブれているなど、滅活字として捨てられてしまっていてもおかしくないコンディションのように見えるものが、なぜか生き延びてくれていて、ほんとうに良かった!!

「オーナメント活字」のオリジナルが知りたい

秀英体のコネタ」の第12回「ピンマーク!ピンマーク!」https://archives.ichigaya-letterpress.jp/contents/shueitai/koneta/koneta_050927.htmlではピンマーク面だけを写し取った画像しか掲載されていなかった「東京」マークと「秀英舎」マークが2つ1組で刻まれているオーナメント活字が文選箱に存在したので、文字面が「大文字A」のオーナメント活字であったことがわかりました。

「東京」マークと「秀英舎」マークが2つ1組で刻まれているオーナメント活字
「東京」マークと「秀英舎」マークが2つ1組で刻まれているオーナメント活字の文字面(大文字A)

「東京」「秀英舎」の組み合わせとなっているピンマークですから、鋳造されたのは1914年から1935年の間と考えられます(「秀英初号明朝フェイスの秀英舎(製文堂)製初号ボディ活字と42ptボディ活字」https://uakira.hateblo.jp/entry/2023/03/21/225239

書体としては製文堂『活版見本帖』(明治36年発行)に掲載されている「Six-Line Pica Ornamented」ですがhttps://archive.org/details/seibundo1903specimen/page/n73/mode/1up、秀英舎製文堂でこれより遡る例があったのかどうかは判りません。

製文堂『活版見本帖』(明治36年発行)「Six-Line Pica Ornamented」と展示活字の文字面画像(左右反転)の重ね合わせ

Palmer & Rey『New specimen book』(1884)で言うところの「Fancy Initials」https://archive.org/details/newspecimenbook00palmrich/page/n91/mode/2up、MacKellar, Smiths & Jordan Co『Specimens of printing types : ornaments, borders, corners, rules, emblems, initials, &c.』(1892)で言うところの「Ornamental Initial Letters」https://archive.org/details/specimensofprint00mackrich/page/n387/mode/2upに相当する系統の活字書体で、Google画像検索の結果によると、1890年発行の「The Aldine 'O'er Land and Sea.' Library」22巻279頁に全く同じ「Six-Line Pica Ornamented」活字が使われていたようですhttps://www.flickr.com/photos/britishlibrary/11116458115/in/photostream/

イギリス系typefounderの何れかが製造販売していた「オーナメント大文字A」を輸入したものということになるのでしょうか。

この活字書体のオリジナルをご存じの方がいらしたら、お教えください。