日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

秀英舎の活字種版彫刻師澤畑次郎と河村鋃太郎のこと

2023年11月3日から2024年6月2日という会期で、市谷の杜 本と活字館の企画展「活字の種をつくった人々」が開催されています(https://ichigaya-letterpress.jp/gallery/000345.html)。この記事の公開時点で、残る会期は週末の3日間。2024年の春からVRツアーhttps://archives.ichigaya-letterpress.jp/contents/virtualtour/が公開され展示解説が確認できるようになり、予習復習にとてもありがたかったです。

さて、展覧会が始まる前にSNSで流れてきた会場設営の情報(https://togetter.com/li/2251253)や内覧会のレポート(https://twitter.com/yukiakari/status/1720009330114838909)に接して、1つ驚きまた嬉しく思ったことがありました。

秀英舎の種字彫刻師として、沢畑次郎と河村鋃太郎の名前が掲げられているではないですか!



今から5年ほど前、東京国文社の創業期に関する不審(明治5年なのか6年なのか)に関する@NIJL_collectors さんとのやりとりの中で話題になった『印刷世界』第8巻第4号(大正博覧会記念号、宮城県図書館蔵)を眺めている中で、秀英舎の紹介記事末尾に、私にとって非常に重大な内容が書かれているのが目に入りました。当時の連続メモツイート1囀目を転載し、続くスレッドからもテキストを転記します。


…活字母型は悉く両名多年の労力蓄積の反映にして其字体の鮮明整備の点に就ては大に世の歓迎を受くる所となる」

佐藤敬之輔『ひらがな』や矢作勝美『明朝活字』が、初代「澤畑次郎」と弟子「河村(金良)太郎」が秀英体の彫師だったと記しているのを、片塩二朗『秀英体研究』が社史にも記録が無く根拠薄弱として退けているのだけれど、準公式記録と言ってもいいんじゃなかろうか、大正博覧会のキャプション。

大正博覧会や、遡って明治36年内国勧業博覧会、これらに秀英舎が出品した際の解説関係、例えば博覧会のことを報じる新聞雑誌の記事みたいな形でもいいから、他に残っていないだろうか……

ちなみに、大正3年4月まで「25年忠勤」っていうのを文字通りに受け取ることにすると、「明治22年以来」ってことになって、秀英舎が「改正」と名乗る(おそらく)最初の総数見本(印刷図書館蔵『五号活字見本 改正』)を出した年になり、そこから数年かけて四号と三号がまず「秀英体」になる、という…

明治20年代の秀英舎の活字書体開発状況に、とてもよく符合する。
(とメモを残しておけば、いつか振り返る時に役立つだろう。)


今回のVRツアー、細かく作りこまれた「種字彫刻師年表」や「人物相関図」が拡大表示できるようになっている気遣いがとても嬉しいです。

さて、数年ぶりに出かけた印刷図書館で『印刷世界』と第2次『印刷雑誌』を眺めていて、澤畑次郎の没年を探すうえでヒントになる情報が第2次『印刷雑誌』2巻5号(大正8年19195月号、印刷図書館蔵)43-47頁に掲載された「株式会社秀英舎の現状」という記事に記されていたことに気づきました。

会場で配られている資料の後半に挙げられている大量の参考資料群の状況から、既に知られた情報かもしれないのですが、46頁「秀英舎活字の特色」という項から引いておきます。

斯界に『製文堂の文字は線が細くて綺麗だ。字格が整つて居る』といふ樣な語は常に耳にする所である。この書體は同舎の愛撫せる技手澤畑次郎、河村銀太郎君等の彫刻に依つて出たであ味ひつて固より他の模す可らざる底のものであるが惜しいかな、澤君は先年物故し、今は河村君が主として其精巧なる刀を振ふ。

念のため、印刷図書館が所蔵している『印刷世界』全号(明治43年大正7年)と、第2次『印刷雑誌』のうち大正7年から大正14年までの雑報(彙報)欄を一通り眺めてみましたが、澤畑次郎の訃報を見つけることはできませんでした。

今のところ、大正博覧会記念号(1914)から新聞号(1919)までの間のどこかの時点が没年と考えて良いようだ、とは言えそうです。

展示エリアに入ってすぐのところで我々を出迎えてくれる「秀英72ポイント・36ポイント木彫り種字」をiPhone14proでSCANIVERSEhttps://scaniverse.com/するとどうなるか。

3Dスキャンデータから書き出したムービーを見た感じだと、Small objectモードの他にMicro objectモードとでもいうようなやつが欲しいかな、という気持ちと同時に、当初予想よりもはるかにしっかり3Dデータが得られていてびっくりしています。