日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

『最新欧文活字標本』(欧文略標本)ほか森川龍文堂が発行し「紀元二千六百年文化柱」に納められた活字見本類の刊行年と所在

2022年12月の国立国会図書館デジタルコレクション全文検索機能のアップデートと、2024年1月の国立国会図書館サーチのリニューアルを受けて、2015年に書いた「森川龍文堂の読みと『最新欧文活字標本』の刊行年」という記事について補足しておきたいと思います。

なお、もしこの記事をご覧いただいている方に、以下の図書資料の書誌データを扱える方がいらしたら、「龍文堂」についてほぼ全て「リュウブンドウ」という読みだけが採られているところに、別名として「リョウブンドウ」を加えていただければ幸いです。

「紀元二千六百年文化柱(文化塔)」に納められた森川龍文堂もりかわりょうぶんどうの活字見本類

長野県茅野市蓼科高原)に設置された「紀元二千六百年文化柱(文化塔)」https://maps.app.goo.gl/dQmFhMPK2eBPgRuJAに、1940年(昭和15)までに森川龍文堂が発行した活字見本類が11点収蔵されているらしいことを、NDL全文検索によって知りました。朝日新聞社編集部編『紀元二千六百年文化柱総目録』(昭和15年12月、朝日新聞社)の101ページhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1104999/1/86に掲げられた一覧を記します。

221 森川龍文堂 龍文堂活字清鑒 1 昭和十年発行
菊判146頁
222 新體明朝活字 1 同 95頁
223 最新龍宋活字 1 同 82頁
224 漢文正角楷書標本(ママ) 1 同 76頁
225 最新歐文活字標本 1 同 82頁
2597年版
226 四號明朝活字見本帳 1 同 44頁
227 最新假名付ケース張用紙 1
228 最新書體活字 1
229 森川龍文堂正楷書活字 1
230 カナモジカイノカナモジカツジ 1
231 森川龍文堂 カナモジウリダシ 1

なお、222番から226番までの「同」は恐らく判型が菊判であることのみを指しており、発行年がすべて昭和10年であるわけではないものと思われます。また227番から231番は1枚もの(チラシやポスターに類するもの)ではないかと予想しています。

以下、この『紀元二千六百年文化柱総目録』に掲載された森川龍文堂資料を軸にしつつ、国立国会図書館サーチなどの検索結果について、各々の刊行年と所在にかかわる覚書を記しておきたいと思います。

文化柱221『龍文堂活字清鑒』(1935.11)

森川龍文堂『龍文堂活字清鑒 邦文書体之標本』表紙(横浜市歴史博物館小宮山博史文庫蔵)

奥付の記載(昭和十年十一月一日印刷・昭和十年十一月五日発行)に基づいて、発行年月を「1935.11」としました。各館の書誌を見ると、書名の採りかたに方針の違いが出ています。

文化柱222『新體明朝活字』(推定1938.1)

森川龍文堂『新體明朝活字』表紙(福島県立図書館蔵)

冒頭に掲げられた「新體明朝活字の種類に就て」という文の2ページ目に「當所に於て是等の條件を具備し、美術印刷向活字として、昭和八年に着手彫刻補刻數年の後漸く發賣するに至りました」「是れに新體明朝活字と名けて、本文用六號五號四號と順次作成發賣致しまして、今日漸く九種の完成を見るに至りました」とあります。この九種というのは、初号、五号三倍、二号、四号、五号、9ポイント、8ポイント、六号、6ポイントの合計9サイズを指します。少なくとも福島県立図書館本には刊記がありませんでした。

三谷幸吉『手易く出来る活版印刷開業の栞』(印刷改造社、1936年)に綴じ込まれている森川龍文堂「邦文活字の書體及規格一覧表」に見えている新體明朝は、二号、四号、五号、9ポ、六号、6ポの6サイズです(https://dl.ndl.go.jp/pid/1056304/1/9)。これ以降の刊行と思っていいでしょう。

NDLサーチでは、大きく分けて書名を「新体明朝活字」とする群と「新体明朝活字標本」とする群の2つのグループがあるようです。

第二次『印刷雑誌』21巻1号(1938年1月)雑報欄に「森川龍文堂細形明朝成る」と題して《森川龍文堂は「新體明朝活字標本」菊判アート紙刷約百頁のカタログ一冊を發行した。》とする記事が次のように記されていますから(NDL館内限定:https://dl.ndl.go.jp/pid/3341163/1/146、少なくとも後半の4点はこの1938年1月に発行されたものと見て良いのではないでしょうか。


新體明朝活字に就て曰く「細型明朝活字が生れたのであります。細型活字は細線のが良いのでは御座いません。印刷面が全面的に良く揃つてゐる、字數が多い事、文字が鮮明であること、縮字轉字にしても、細線が切れずに良く字劃が判つきりしてゐる事等が揃つて居らねばなりません。當所に於て是等の條件を具備し、美術印刷向活字として、昭和八年に着手彫刻補刻數年の後漸く發賣するに至りました」とある。以て新體明朝活字の出現理由を知るに足る。収むる字種は初號三千三百字/*1五號三倍四千字、二号一萬二百字、四號八千五百十四字、五號八千八百字、九ポイント八千百字、八ポ七千五百字、六號八千ニ百字、六ポ六千ニ百字。

「収むる字種は」云々と書かれている内容は、福島県立図書館本の冒頭に掲げられた「新體明朝活字の種類に就て」という文の1ページ目に掲げられている字種一覧の引き写しであり、アート紙刷95ページの福島県立図書館本を見た限りでは、活字見本の本体部分に全サイズの全字種が掲載されているわけではありません。

2014年に実見した福島県立図書館本で「新体明朝活字標本」と記された箇所を目にした記憶がなく、前半4点と後半4点が同じ資料を示しているのか異なる資料なのか、別途確認しておきたいと思っています。三康図書館の書誌では書名として「新体明朝活字標本」と記されつつ「表紙別書名:新体明朝活字」という補足がありますから、わたくしが福島県立図書館本の何かを見落としてしまっている可能性があります。

文化柱223『最新龍宋活字』(推定1936)

森川龍文堂『最新龍宋活字』表紙と扉(福島県立図書館蔵)

印刷出版所『日本印刷需要家年鑑 昭和11年版』(1936)に森川龍文堂による龍宋活字の広告が綴じ込まれているほかhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1231434/1/501。第二次『印刷雑誌』19巻6号(1936年6月)にも、一種の名刺広告として「丸呉竹活字」「龍宋活字」「漢文正楷書」の三種が掲げられています(https://dl.ndl.go.jp/pid/3341144/1/47)。

文化柱224『漢文正角楷書標本(ママ)』(推定『漢文正楷書標本』1936)

大阪出版社編『印刷美術年鑑 昭和11年版』が、同年(1936)3月の出来事として大阪市《南区安堂寺町通一丁目森川龍文堂は「漢文正楷書標本」と題し同書體各號の綜合的見本帖を發行》と記していますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1684147/1/266。また第二次『印刷雑誌』19巻3号(1936年3月)に「森川龍文堂の漢文正楷書標本」という記事が出ています(NDL館内限定:https://dl.ndl.go.jp/pid/3341141/1/78。記事に曰く:


最近目醒しい活動を續けてゐる大阪市南區内安一森川龍文堂は又々、新刻漢文正楷書活字見本を滿載したカタログ「漢文正楷書標本」を發行した。初號、三十六、二十四ポ等大活字數十字、一號以下、二號、十八ポ、四號、五號/*2九ポ各七千餘字中より抜萃の文字を収め、特に本文用として代表的な十八ポは七千百三十四字の全部を収錄してゐる。

したがって『漢文正楷書標本』が正しい書名で、出版年が「1936.3」になるものと思います。

NDLサーチ、CiNiiブックス、Worldcatでは見当たらず、印刷図書館や印刷博物館にも所蔵されていないため、国内の図書館等では「紀元二千六百年文化柱(文化塔)」にしか残っていないかもしれません。

Googleブックスによると朝鮮総督府圖書館『新書部分類目錄』(昭和12年1月1日現在)453ページに、「森川龍文堂編『漢文正楷書標本 文字の精美新活字』昭和11」と記載されているのですが、これは現在も韓国の国立中央図書館に所蔵されているようです。

文化柱225『最新欧文活字標本』(1937)

森川龍文堂『最新欧文活字標本 2597』表紙と扉(福島県立図書館蔵)

2015年の記事「森川龍文堂の読みと『最新欧文活字標本』の刊行年」において、表紙の「2597」は「皇紀2597年」すなわち西暦1937年を表しているのではないかと記していたのですが、今回、NDL全文検索によって第二次『印刷雑誌』20巻7号(1937年7月)雑報欄の「新刊紹介」記事を見つけることができました。

曰く、「大阪、森川龍文堂の「最新歐文活字標本」が新製刊行された。菊判全アート紙八〇頁、略見本としては堂々たるものである。ジョッブフェースとしてはセンチュリー、セルテンハムなど美しい字體が揃つてゐるし、ゴヂツクでは新書體のバンハートが注目される」等とあり(NDL館内限定:https://dl.ndl.go.jp/pid/3341157/1/123、この概要は『最新欧文活字標本 2597』に符合しますから、表紙の「2597」は「皇紀2597年」すなわち西暦1937年の意味で間違いないでしょう。

この記事で扱う《「紀元二千六百年文化柱」に納めらた活字見本類》には含まれませんが、森川龍文堂『新聞活字』(1938刊、奥付無し、印刷図書館蔵〈Za400〉)もまた、表紙の書名が「新聞活字」のみで、扉には「新聞活字/2598」とあります。

私は『最新欧文活字標本』について、2014-2015年当時も2024年現在も福島県立図書館本と国立国会図書館本しか実見していない状態ですが、以下はすべて同じ資料ではないかと思います。

文化柱226『四號明朝活字見本帳』(推定1927-1937)

森川龍文堂『四號明朝活字見本帳』表紙(福島県立図書館蔵)

今までに実見したのは福島県立図書館蔵本だけなのですが、41ページに「普通形」平仮名(築地体後期四号書風)と「中形」平仮名(秀英四号書風)が掲げられています。仮名の活字セットとして、1933年(昭和8)の『活版総覧 : 和欧文活字と印刷機械』111ページhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1209922/1/60や、1935年の『龍文堂活字清鑒』128ページに掲載されているものと同じ内容であり、推定1937-38年『新體明朝活字』92ページの「新体四号明朝」(秀英四号ベースに独自化を試みたもの)にはなっていません。44ページに掲載されている「二分一平字」「二分一太ゴチック」「二分一太丸ゴチック」に「昭和」の字が含まれていますから、昭和2年以降の10年ほどの間に発行されたものと考えられます。

文化柱227『最新假名付ケース張用紙』

活字見本帖は印刷所が補充活字の注文などを行うために利用していた備品であるために、活字会社の廃業や活版印刷所の廃業と共に捨て去られてしまうことが多く、現在まで残っているものは極めて少ない状態です。この活字見本帖に比べても更に「実用品」度が高いため後世に残されにくいと見られるのが「活字ケース張用紙(活字ケース貼紙)」になります。

大日本印刷株式会社/市谷の杜 本と活字館「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」で公開されている「明朝9ポイント活字棚全景」から任意の活字ケースを拡大していくと、スダレケースと呼ばれる形の活字ケースの1列1列に、どういう文字が収納されるべきか、見出しが示されていることがわかります。

大日本印刷株式会社/市谷の杜 本と活字館「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」の「明朝9ポイント活字棚全景」より「出張ケース1」(部分)

森川龍文堂『最新假名付ケース張用紙』は、新聞・雑誌などの本文活字セットとして印刷所に提供する活字ケース張用紙――1段ごとに切り離す前のもの――ということになるのでしょう。下記が同じものなのではないかと予想します。

文化柱228『最新書體活字』

『印刷時報』172号(1940年1月号)に綴じ込まれた活字見本シートhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1499108/1/105 - https://dl.ndl.go.jp/pid/1499108/1/109の、綴じ込み前のものなのではないかと想像しています。2040年正月に予定されているという「紀元二千六百年文化柱(文化塔)」開扉時に確認してみたいものです。

文化柱229『森川龍文堂正楷書活字』

第二次『印刷雑誌』20巻3号(1937年3月)雑報欄(NDL館内限定:https://dl.ndl.go.jp/pid/3341153/1/79「森川龍文堂は提携して正楷書活字の全系列を完成されたので、この普及の爲め、本號広告欄の申込」

文化柱230カナモジカイノカナモジカツジ』

『印刷美術年鑑』昭和8年版(1933)綴じ込まれた活字見本シートhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1208644/1/73に類するものなのではないかと想像しています。2040年正月に予定されているという「紀元二千六百年文化柱(文化塔)」開扉時に確認してみたいものです。

文化柱231『カナモジウリダシ』

『印刷時報』180号(1940年9月号)に綴じ込まれた活字見本シートhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1499116/1/65の、綴じ込み前のものなのではないかと想像しています。2040年正月に予定されているという「紀元二千六百年文化柱(文化塔)」開扉時に確認してみたいものです。

*1:原文改行はのみで区切り符号無し

*2:原文改行はのみで区切り符号無し