日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

新旧の秀英舎『明朝初号活字見本帳』を見比べる

2022年10月5日、大日本印刷「市谷の杜 本と活字館」の関係者であるmashcosan氏のツイート(https://twitter.com/mashcosan/status/1577439269043720192)により、9月22日付で「当館が所蔵している資料のうち公開を予定している資料の一覧」(https://archives.ichigaya-letterpress.jp/library/data)が示されていたことが明らかになり、「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」によって号数活字時代の新旧見本帖を見比べることが将来的に可能になるという道筋が示されました。
一覧から、大日本印刷「市谷の杜 本と活字館」所蔵の号数制明朝活字見本帳の新旧対比表を作ってみると、次のようになります(二号明朝の並びは間違っているかもしれません)。

活字
初号明朝 昭和4年2月25日発行 明治43年4月5日発行
一号明朝 大正15年8月5日発行 明治43年10月25日発行
二号明朝 不明 明治45年2月5日印刷
三号明朝 昭和4年2月25日発行 明治43年10月25日発行
四号明朝 昭和3年10月10日発行 明治40年5月25日発行
五号明朝 大正13年12月25日発行 明治42年10月20日発行
六号明朝 昭和3年10月印刷 明治43年12月5日発行

このニュースに接した感動の個人的な記念として。

秀英初号明朝について、2022年2月2日に公開されたDNP秀英体活版印刷デジタルライブラリーの昭和4年版と、文化庁文化部国語課『明朝体活字字形一覧 1820年~1946年 漢字字体関係参考資料集』(大蔵省印刷局、1999)に整理収録されている横浜市歴史博物館小宮山博史文庫所蔵の明治36年版(目録参照:https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/index.php?cID=5256)を粗く見比べるだけでも結構面白いんじゃないかと考えて今年度上半期に取り貯めていたメモを公開します。

明治36年版見本帖の情報を『明朝体活字字形一覧』に依っているため、仮名や約物等については比較対象外となっています。



明治36年昭和4年の秀英初号明朝を比べてみる

2022年2月2日、大日本印刷「市谷の杜 本と活字館」のウェブサイトに「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」というアーカイブが構築されたというプレスリリース(https://www.dnp.co.jp/news/detail/10162049_1587.html)が公開されました。

アーカイブの「資料一覧」(https://archives.ichigaya-letterpress.jp/library/items)を見ると、2種類の総合見本帳と、現在の本文系「秀英体」の源流であるベントン原図、そして昭和4年(1929)発行の『明朝初号活字見本帳』が公開されており大いに驚き喜んでから約半年。9月に入って更に数点追加されるなど、大日本印刷「市谷の杜 本と活字館」所蔵資料の公開が着々と進められているようです。

かつてiPhone専用の電子書籍として「秀英体全集」が登場し(https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/408132.html)ひっそりと消え去ってから約10年。待ちに待った、しかもオープンな資料公開(IIIFでのアクセス、画像ダウンロード可能、CC-BY4.0での利活用 https://archives.ichigaya-letterpress.jp/library/about)を可能にしてくださった関係者の皆さんに、深い敬意と感謝をささげたいと思います。

かつて「秀英体全集」として公開された資料が「秀英体活版印刷デジタルライブラリー」でどこまで公開されるか判りませんが、昭和4年版『明朝初号活字見本帳』が公開されたことにより、『明朝体活字字形一覧』に整理収録されている横浜市歴史博物館小宮山博史文庫所蔵の明治36年版と見比べてみて変遷を辿ることが可能になりました。明治36年版の漢字総数は2411字、昭和4年版は2682字(「漢字」2667字+「数字」15字)とありますが、ざっと眺めた限りでは、漢字の増減(「減」があるとは思っていませんでした!)の他に、部分字体の変更といったものが見られるようです*1

以下に掲げる秀英初号明朝活字の画像のうち、昭和36年版は『明朝体活字字形一覧』からのスキャン画像、昭和4年版は大日本印刷株式会社/秀英体活版印刷デジタルライブラリーのIIIF画像URI2.1API構文)によって取得しています。

明治36年版にあって昭和4年版に無い(?)もの

  • 儻儼(《一覧》上p27)
  • 醴(《一覧》下p542)

昭和4年版にあって明治36年版に無い(?)もの

明治36年版に「昭」の字が無かったのはある意味当然なのですが、他にも〈この字が無かったの?!〉というようなものがずいぶんありますね。

字体訂正

紀は、明治36年版で「糸巳」のように見える「糸已」と思われる形状だったものが昭和4年版では「糸己」になっています。

明治36年昭和6年
(紀:昭和4年版57頁〈30コマ左〉2行目掲出 https://archives.ichigaya-letterpress.jp/api/image/2/001_030.tif/2800,3790,500,500/full/0/default.jpg

記は、明治36年版で「言已」だったものが昭和4年版では「言巳」になっています。

明治36年昭和6年
(記:昭和4年版69頁〈36コマ左〉4行目掲出 https://archives.ichigaya-letterpress.jp/api/image/2/001_036.tif/1510,6010,500,500/full/0/default.jpg

負は、明治36年版で「刀」だったものが昭和4年版では「ノフ」になっています。

明治36年昭和6年
(負:昭和4年版72頁〈38コマ右〉4行目掲出 https://archives.ichigaya-letterpress.jp/api/image/2/001_038.tif/5560,3820,500,500/full/0/default.jpg

昭和4年版に出現した謎の字

車偏に目/早

明朝体活字字形一覧』の見出しに無い文字が追加されているようです。Unicodeでは探せなかったので、文字符号で表すことができませんでした。この字は一体何者なのでしょう。実用例はあるのでしょうか。

(車偏に目/早:昭和4年版75頁〈39コマ左〉4行目掲出 https://archives.ichigaya-letterpress.jp/api/image/2/001_039.tif/1480,2670,500,500/full/0/default.jpg


ともあれ、秀英体活版印刷デジタルライブラリーの追加公開が待ち遠しいところです。

*1:見間違い・拾い間違いがあると思います、お気づきの方はお知らせください。

*2:もっと丁寧なアノテーションのキュレーションビューにしたかったのですが力及ばず……