日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

飛翔体・飛昇体の原語と飛昇体の初出は?

前日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/uakira/20090405)にコメントを下さった皆さんや、トラックバックつきで関連記事を記してくださった皆さん、そして小形さんの原記事のブックマークコメントに、多くを教はった。
id:Midasさんのブクマコメントによると、斎藤利生『宇宙飛翔体』(甲陽書房、1966年)には「飛翔体の定義と共にICBMと未来の惑星間核融合ロケット想像図がなかよく並んでる」らしい。
id:andalsiaさんのブクマコメントが指し示す2ch軍事板99式空対空誘導弾スレによると、いはゆるミサイルのことを三菱重工が「飛昇体」、川崎重工が「飛翔体」と称してゐるのは有名、であるらしい。
前日の記事へのid:KoichiYasuokaさんからのコメントによると糸川英夫『AVSA研究計画について』(1955)に「飛翔体」が頻出といふ。
大沢弘之『新版 日本ロケット物語』(asin:4416203055)冒頭の「世界と日本のロケット発達系統図」によると、1931〜1945年に旧日本軍は「ロケット弾の研究を行」ひ、「一部実戦で使用した」といふから、前田裕子『戦時期航空機工業と生産技術研究』(東京大学出版会、2001年)ではねぇが、初期の研究者が敵性言語から翻訳して生れた語が「飛翔体」で糸川英夫東京大学第二工学部時代からその語に馴染んでゐたんぢゃないか――などと想像が進む己なんだども、今の段階では何も判らない。
三菱重工が「飛昇」といふあまり一般的ではないんぢゃないかと思はれる字――少なくとも広辞苑第五版・第六版には見えない――を選んでゐるのはロケット・ミサイル関連用語で敗戦前から存在しただらう「飛翔体」を常用漢字の同音字で書き替へた独自仕様なんぢゃないかと想像する己だども、そして昨今の日本政府にもさういふ手はあったべよと思ふ己なんだども、日本国語大辞典第二版は「ひしょう」の見出し語に「飛昇」も「飛翔」も載せてをり双方とも戦前の用例があるから、現段階では三菱重工が戦中から「飛昇」を使ってゐないとは言へねぇなぁといふところ。
ちなみに日国の「飛昇」と「飛翔」は語釈が異なり、日国精選版にも広辞苑第六版にも日国第二版にも「飛翔体」は無い。
さしあたり、林克也『日本軍事技術史』(1957)、東京大学生産技術研究所東京大学第二工学部史』(1968)、今岡和彦『東京大学第二工学部』(asin:4062033801)、立花隆天皇と東大』(asin:4163674403)、ついでに垣見恒男他『昭和のロケット屋さん』(asin:4767805228)などを見ておくべと心覚え。
天皇と東大』については、文春のサイトにある『東京帝大が敗れた日』の「平賀総長が生んだ第二工学部」を見とけば充分か?
以上、東北大学付属図書館が今年度から平日は22時まで開館してくれるので20時閉館の仙台市民図書館頼りだった従来よりも気軽に日本国語大辞典を引くことができてともて嬉しく深い感謝を捧げたい己。
ともあれ、飛翔体・飛昇体の原語と飛昇体の初出について、ご存知の方がゐらしたら、ご教示希ふ次第です。
なほ、小形さんの元記事への小熊さんのコメントからJAXAのサイトを辿り、「飛翔体関連技術」頁の英語版と日本語版を見る限り、現在の「飛翔体」は「Flying Vehicle」の訳語といふことになる模様。
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/tech/flight/index.shtml
http://www.isas.jaxa.jp/e/enterp/tech/flight/index.shtml