日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

一十百千万億兆京

「一十百千万億…」と振られっと、ついつい「チョーキョー、オゥオゥ俺たちは」云々*1と続けたくなる己なんだども。
数の名である「京」について、「けい」と読むのが正しく「きょう」は誤りなので語義として数位の意は記述しないといふ立場の辞書と、どちらも使はれてゐるから双方掲げるが「けい」が好ましいといふ立場の辞書と、双方掲げるが現代語としては「きょう」が優勢といふ立場の辞書が在るらしく。
例へば『岩波国語辞典』(第五版)や『新明解国語辞典』(第四版、五版、六版)は第一の立場。『岩波国語辞典』は「けい」の読みに「京」の字を載せてゐないものの「きょう」の読みの「京」の項に「以下「ケイ」と読む。」と断った上で「④〘名〙数の名。兆の一万倍。けい。」と記してゐる。
新明解国語辞典』は【きょう(京)】に数位の語義を記さず【けい(京)】へのポインタを示し、【けい(京)】の項では「一兆の一万倍を表わす数詞。きょう。〔十の十六乗に等しい〕」と記した上で「垓」へのポインタを示してゐる。【がい(垓)】の項では語義と「大数」へのポインタがあり、【大数】の項では「『塵劫記』の一本により」として兆から無量大数までの名を示してゐる。
確かに、http://d.hatena.ne.jp/uakira/20071209のコメントさも記した通り東北大学図書館にある『塵劫記』ば見っと、数位の「京」さは「けい」と振り仮名が振らってゐて「きやう」では無い。『日本国語大辞典』第二版は第二の立場らしく見えるが、【けい(京)】の項でロドリゲス日本大文典の用例と広益熟字典の用例を掲げ「けい」と呼ぶ伝統の長さを示してゐる。
国語辞典では無ぇんだども、『新潮日本語漢字辞典』も第一の立場。【京】の項で「⑤(「ケイ」と音読)数の名。兆の一万倍。一〇の一六乗。古くは、兆(今の一〇〇万)の一〇倍で、現在の一千万を指した。「三京六〇〇〇兆」」と記してゐる。
一方、第二の立場と言へば『広辞苑』は概ね二番目の立場。第一版では【きょう(京)】③「兆の万倍。けい。」【けい(京)】①「億の一億倍。兆の一万倍。」といふ簡略な記述で二番目の立場か三番目の立場か判断がつかない状態だったものが、第二版から【きょう(京)】③「兆の一万倍。けい。」【けい(京)】②「億の一億倍。兆2の一万倍。即ち一〇の一六乗。」③「古くは、兆3の一〇倍。即ち一〇の七乗。」といふ語釈になり、以降第五版までほぼ同じ記述が継承されてゐる(第四版から「きょう」にも「けい」にも「数の単位。」といふ記述が冒頭に加はる)。
対する『大辞林』や先ごろ第六版が出た『三省堂国語辞典』は三番目の立場かと思はれ、『大辞林』は第一版、第二版、第三版とも、【きょう(京)】③「数の単位。兆の一万倍。一〇の一六乗。けい。〔塵劫記〕」【けい(京)】「数の単位。兆の一万倍。すなわち一〇の一六乗。古くは兆の一〇倍をいう。きょう。」といった記述をしてゐる。
三省堂現代国語辞典』(第一版)では【けい(京)】の項は【きょう(京)】へのポインタが示してあるのみで、【きょう(京)】を見ると「[二]③数の名。兆の一万倍。けい。」と記されてゐる。第三の立場を更に進め現代人にとって数位の「京」は「きょう」だとする第四の立場と言ふべきか。
さて、そんなこんなで年頭まで数位の京は「キョー」でいいんぢゃないのと思ってゐた己だったんだども。
先頃第六版となった『広辞苑』。第二版から第五版までは二番目の立場だったと思ふんだども、第六版では【きょう(京)】③が「けい②」へのポインタを示すのみとなり、「数の単位」としての記述が省かれた。第一の立場への転向と言ってよいだらう。大急ぎ小急ぎの件で己内評価が高まった『新世紀ビジュアル大辞典』も、横書きの利点を活かして【京(けい)】の語釈に「ten thousand trillien」*2といふ記述を添へてゐる。ウチの野郎ッコは数詞について「英語で何といふか」も知りたがってゐるので、かうした配慮は助かる。漢字の勉強もやりたがってゐる四歳児に与へる第一候補に挙がってきた『下村式小学漢字学習辞典』の【兆】の項においても、大数ば記したコラム中で「京」の読みは「けい」だった。
野郎ッコさは「オトーサンちょっと間違ってたみたいだよゴメンね」とお詫びしつつ「けい」派に転向すっぺと決めた己。
……
それはそれとして。
日本の国家予算が数十兆円でGDPが数百兆円。IMFが集計(推計)した世界180ヶ国/地域のGDPを合計したら50,000 US billion dollarくらい(2006年が48,310、2007年が53,431)で世界銀行が集計(推計)した世界209ヶ国/地域のGNIも2006年で48,481,838 US million dollarってことはここしばらくは数千兆円規模。
すごくたくさんのお金の意でしきりに「五京円」「五京円」といふ野郎ッコさ、「世界中のお金を全部集めても五京円にはなりません*3」と応える己なんだども。
日常生活で目や耳にする可能性がある「京」位の数で、例へば「5平方kmの範囲に20cmの積雪をもたらす雪の結晶の数」みたいな、具体的かつ詩的なモノっていふと、どんな数字があっぺか。詩的ぢゃなくてもいいけど京の位から大外れしない数。
星の数?

*1:石ノ森章太郎東映ヒーロー『宇宙鉄人キョーダイン』のエンディングテーマ「キョーダインとは俺たちだ」の一節。

*2:英語の命数法でbillionの上位はtrillionだと思ってゐたが、trillienといふ表記もアリなのかどうか、不勉強にて判らずにゐる。

*3:実体を伴はねぇマネーの世界では国内債権市場の年間売買高がついに先物を除いても2007年11月に1京円を超えたらしい。