満四歳を迎えたウチの野郎ッコなんだども。
このところ、長い・短い、大きい・小さい、太い・細い、多い・少ない、高い・低いなどの意味あひと使ひわけを覚えっぺと努力してゐるといふか戯れてゐるといふか、さういふ類のコトバに夢中で、最近の己とのおしゃべりの多くは対語や分量・度合ひに関はる言葉遊び。
そんなある日の、乗り物の速度についての会話。
子「ベビーカーは?」
己「ゆっくり」
子「自転車は?」
己「早い」
子「車は?」
己「もっと早い」
子「大急ぎ?」
己「大急ぎ、すごく早い」
子「小急ぎは?」
己「コイソギってなあに?」
子「ちょっと早い?」
己「うーん、小急ぎっていふのはあんまり言わないと思ふなぁ」
――てな会話の後、大小が頭につくだらう言葉でどちらか一方に偏った使ひかたをする語として「小走り・大走り」「大駆け・小駆け」などを思ひ浮かべながら国語辞典で「こいそぎ」ば眺めてみたっけ、『広辞苑』第六版は「小急ぎ」を見出し語に立ててをらず『明鏡』も載せてゐねがったども、『大辞林』や『新明解国語辞典』、『新潮現代国語辞典』は語義を述べてをり、『大辞泉』と『精選版日本国語大辞典』は語義の他に木下尚江『火の柱』の用例も挙げてゐた。『日本国語大辞典』第二版だと近松秋江『疑惑』の用例が更に増える。
意外なと言っては失礼だと思ふども、学研の『新世紀ビジュアル大辞典』は語義を説明した上で対語として「大急ぎ」を示してをり、己内評価が上昇。
念のためウェブば検索してみだっけ、大急ぎと小急ぎが同一テキストさ出現する例に、『オンチ』、『芝居狂冒険』、『巡査辞職』など青空文庫にある夢野久作の短編と、同じく青空文庫にある佐々木味津三『右門捕物帖』から『生首の進物』、『なぞの八卦見』など幾つかのテキストが引っかかったので、夢野の三篇ば今回初めて読んでみた。
更にかうしてテキスト入力ばしてみてMS-IMEで「こいそぎ」が「小急ぎ」に難なく変換されるといふことも判り、野郎ッコのおかげで「小急ぎ」といふ言葉が普通に存在するらしいこと知った己。
ついでにネット検索した「大走り小走り」については、立山方面の真砂岳付近の地名として存在するらしいことも知つた。「大走り尾根」「小走り沢」らしく、緩やかな尾根で大股歩きが可能なルートと急峻な沢筋で小股で注意するルートといふ想像ばしてみた己だども、ウオッちずでは見当たらねぇのが残念。
ヒトの動作を離れて「大走り」ば考へると、非常に早い時期に出荷される農産物・水産物の意で「大走り新茶」などの用例はあっても「小走り」は無いよなと思ひつつ、「大走り」「走り」「旬」といふ時間経過があるとして「走り」と「旬」の間に「小走り」があったりしそうな気がしないでもない。大食通の間で、ホントに旨いのは小走りの××だ、みたいな季節感がありそうな……んだども実際のところを確認できねぇ。
競走馬は「大駆け」することはあっても「小駆け」とは表現されないよなぁ、と思ふが不調法ゆゑ詳細不明。
ともあれ息子よありがたう。おかげで父さんいい勉強になったよ。
ちなみに、上記国語辞典と並行して眺めてみた小学生用国語辞典さは「大急ぎ」が載ってゐねがった。本人が調べてみるっていふ習慣ばつけさせてぇからコドモ用の国語辞典も用意しておきてぇんだども、ついでに精選版“日国”ば買ってしまふべか。精選版とはいへ“日国”は大げさだから、図版が豊富で己内評価が上昇した『新世紀ビジュアル大辞典』にすっか……。