2024年11月9日に「蛮勇を奮って仮称「西磐井活字」全体の整理を始めたものの築地五号と活文舎五号以外へうまくアプローチできず己の力不足を突き付けられている話」という記事を記した五号活字について。
同記事の末尾で今後の整理方針について次のように悩んでいたわけですが。
現時点では当初の文選箱の方向性に従って、「漢字・仮名の別>ネッキの種類>ピンマークの種類」という階層によって整理してみつつあるところだったのですが。
こうして記事を書き進めてみて、「ネッキの種類>ピンマークの種類>漢字・仮名の別(>少なくとも仮名は文字種別に整列)」という階層に切り替えた方がtypefounder研究という観点からも好ましいのではないかという気がしてきたところです。
さてどうしたものか。
まずは表題にある通り「元仮名箱」を漢字・仮名の別>ネッキの種類>ピンマークの種類で仕分けし、仮名については概ね50音順となるよう整理してみました(以下、文字面を見せる画像は左右反転)。
1行目「させたたとに丹ふもりをんん」の13本が築地活版型の3本ネッキで商標ピンマーク入り活字、そのあとの「あああ」から20行目中ほどの「んんん」までが築地活版型の3本ネッキで無印ピンマーク入り活字、都合391本が築地活版のオリジナルと思われる築地五号活字です。書体は後期五号が大半で、前期五号も少し混ざっています。
ここから更に15本が3本ネッキ活字で、ネッキは3種類に分かれています。
――と、ここまでは良かったのですが、この先に2本ネッキの活字を並べてみた文字面、どうにも違和感がある。試しに書風ごとに整理し直してみると、当初差異とは見ていなかったネッキの違いを識別子として認識しておく必要があったのだと判ってきました。
そこで、3本ネッキも含めて、ネッキの種類とピンマークの種類をこのように区別したという記録を取り直していくことにします。
3本ネッキの活字
築地活版型3本ネッキ
画像の下3本が商標ピンマーク入り「させた」の3本で、上3本が無印ピンマーク入り「んんん」の3本になります。母型深度の違いについては、今は考えないこととします。
築地活版類似の3本ネッキ
築地活版型3本ネッキと比べて、全体的に文字面方向に1mmほどネッキの位置が平行移動している状態です。足元から順に「太細細」という溝になっているところは共通していますし、書体も築地五号ですが、一応別物として扱っておきます。
「元仮名箱」図1および図3の、20行目中ほど、「んんん」に続く「お」が、この型のネッキの活字でした。
築地活文舎型3本ネッキ
築地活文舎の商標ピンマーク入り活字です。11月8日時点の記事「築地活文舎五号仮名フェイスの築地活文舎製築地五号ボディ活字(築地活文舎のピンマークと五号活字ネッキの覚書)」では9本分と見ていましたが、10本分だったようです。
「元仮名箱」図1および図3の、20行目から21行目にかけての「がきてててとよらるれ」が築地活文舎の五号仮名。特徴的な「き」が含まれていてラッキーでした。
鋳造者未詳の3本ネッキ
1本だけ、うっすらと「カ」という商標の痕跡が見えるような気もするのですが、現時点では鋳造者未詳としておく活字です。
以上ここまでの3本ネッキ活字を収めた画像である「元仮名箱」図3の、末尾4本「うがしと」がこの活字です。
2本ネッキの活字
「謎の五号仮名」の2本ネッキ型
無印大型ピンマーク入りの2本ネッキ活字なのですが、
次に示す「元仮名箱」図4の、21行目「うかきざざなまみらら」の10本です。
ピンマーク無し2本ネッキ
ピンマーク無しの2本ネッキ活字です。「元仮名箱」図4の、21行目の妙な「な」1本。
無印小型ピンマーク入り2本ネッキ
無印小型ピンマーク入りの2本ネッキ活字で、ネッキのパターンは「謎の五号仮名」の2本ネッキ型によく似ていますが、文字面側に若干平行移動している感じです。
「元仮名箱」図4の、21行目末尾3字「うくく」から24行目中ほどの「をををを」までの54本。
無印大型ピンマーク入り2本ネッキA
無印大型ピンマーク入り2本ネッキBに比べてネッキの溝が大きく深い形状で2本の間隔もBやCよりも開き気味。
「元仮名箱」図4の、24行目中ほどの「しししし」から25行目半ば過ぎ「れををを」まで。
無印大型ピンマーク入り2本ネッキB
無印大型ピンマーク入り2本ネッキAに比べてネッキの溝が小さく浅い形状で2本の間隔もAより狭い。
「元仮名箱」図4の、25行目から26行目にかけての「つつででではははは」。
無印大型ピンマーク入り2本ネッキC
無印大型ピンマーク入り2本ネッキAに比べてネッキの溝が小さく浅い形状で2本の間隔と位置はAに近似。
「元仮名箱」図4の、26行目「うした」から最後の「はははべ」まで。
1本ネッキの活字
無印ピンマーク入り1本ネッキ型
2本ネッキの経験から、ネッキの位置が若干違うことやピンマークの大小の違いを区別するべきかと思わないでもなかったのですが、
ピンマーク無し1本ネッキ型
「元仮名箱」図5の最後の10字がこのタイプです。「に」が「謎の五号仮名」であるようにも見えますが、よく判りません。
特殊なネッキの活字
ピンマーク入りの側面から見るとネッキの溝があるのか無いのか判然としない形態なのですが、腹側やピンマークの反対側から見ると溝がある、そういう特殊なネッキの活字です。どういうtype mouldなのでしょう。「ブルース式」ではないpivotal type casterを使うとこういうネッキになるのでしょうか。
ピンマーク入り不定3本ネッキ型
ピンマークをよく見ると、うっすらと「A」の字が存在するような気がする――ということは青山進行堂製品でしょうか――。ネッキの溝をどこまで入れるのか一定していない不思議な活字です。
無印ピンマーク入り半溝3本ネッキ型
先ほどの不定長の溝と違って、きちんと半分にしたという風に見える活字です。数量はこの2本のみ。
改めて整理し直した「元仮名箱」に見える「謎の五号仮名」
冒頭に掲げた「元仮名箱」図1と比べて、一部の仮名の並びが変わっているのがお分かりいただけるでしょうか。
また、次の図のように、21行目と27行目に「謎の五号仮名」が含まれていたことが判明しました。
元日の記事「『日本』紙や『国家経済会報告』等に見える謎の五号仮名」で示した山形の『阿古耶の姫松』では使われていなかった「袋を持つ形の「を」」が「謎の五号仮名」活字セットの標準の字形だったものと考えて良さそうです。