日本語練習虫

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タイポスのマンガデビューとマンガ表現上の役割

タイポスは、1970年頃の少女マンガ界でマンガデビューを果たしたんでねぇべかと、今のところ己は思ってゐる*1
初出誌ば確認してゐないので定かでは無ぇんだども、例へば(1)一条ゆかり「ジルにご用心」で物語の導入ナレーションにタイポスを使ひ*2、(2)一条ゆかり「彼」ではモノローグにタイポスを使ふ*3、といった具合に、1969年の写植文字版発売開始から間もなく、少女マンガ界の中でも先鋭的な存在だったらしい*4『りぼんコミック』掲載作品が、1970年頃からタイポスば試し始めてゐる。
少女マンガの世界ではその後、(3)大島弓子「星にいく汽車」*5で“作者以外の者のココロに響いてゐる状態の詩”の表現にタイポスが使はれたり、(4)一条ゆかり『デザイナー』の前編では単に横書きだった外国語のセリフが後編では横書きでかつタイポスになってゐたり*6、(5)一条ゆかりエスパー狩り」ではテレビ音声にタイポスを使ってゐたり*7、といった表現が為されてゐる。
この他、(6)竹宮恵子では『風と木の詩』16巻で街に流れる“薔薇色の人生”の歌詞にタイポスが使はれるのが最初ではねぇか*8、とか、(7)山岸涼子アラベスク』第一部(全集p.109)のアナウンスがタイポスだ、とか、(8)さうとうたかを『ゴルゴ13』では31巻『落日の死影』p.43に見られる“電話声”がタイポス始めらしい*9、とか、(9)寺沢武一コブラ』1巻ではロボットの声にタイポス*10、(10)聖悠紀超人ロック』1巻では録音テープから再生される音声にタイポス*11と、現在でも馴染みのある表現が当たり前のものとして為されてゐるんだども、(11)少年画報社版の松本零士銀河鉄道999』1巻*12では小学館叢書版*13でタイポスになってゐる機械音声がアンチゴチだ、――といった観察の一方で。
講談社の少女誌・女性誌では*14タイポスの代はりに(おそらく一貫して)モリサワ「フォーク」が同様の役割を果たしてゐるらしく、(12)庄司陽子『生徒諸君』1巻pp.156-157の“スピーカー音声”に漢字ゴシック仮名フォークの組み合わせが使はれ*15、(13)大和和紀はいからさんが通る』1巻では、紅緒たちが歌う“まっくろけのけ節”が漢字ゴシック仮名フォークの組み合はせで、蘭丸が謡う“咲く梅が香も手弱女の”が漢字明朝仮名フォークの組み合はせだ*16。ただし、庄司陽子『生徒諸君 教師編』1巻pp.23-24の回想シーンのセリフが漢字・仮名フォークだがp.150の電話越しの声はアンチゴチ*17、国本果子・文月今日子『ミラノ・これくしょん』p.12の回想シーンでは肉声セリフもモノローグも漢字ゴシック仮名フォークでpp.61-62のテレビ越しの音声は漢字・仮名ゴシック*18など、役割が変はるケースも観察される。二ノ宮知子のだめカンタービレ』では“電話声”と“音楽”にモリサワ「フォーク」。
かうしてみると、「タイポス系書体は、商業マンガにおいて、主にスピーカー音声や歌声など“地声とは違った表情を与えられた声”の表現に使はれる」とまとめてしまって良いのかどうか、判断が難しい。

*1:集英社『りぼんコミック』においてデビューした、とか、「24年組」が使ひはじめた、とか、一条ゆかりが…、などと言ふには、まだ判断材料が大ひに不足してゐる

*2:『りぼんコミック』1970年9月号、RMC-101『ティー・タイム』前編1991年15刷で確認

*3:『りぼんコミック』1971年3月号、RMC-101『ティー・タイム』前編1991年15刷で確認

*4:TINAMIX『青少年のための少女マンガ入門』http://www.tinami.com/x/girlscomic/ichijyo-yukari/page1.html

*5:週刊マーガレット』1972年5月の号、SCM-309『ミモザ館でつかまえて』1977年10版で確認

*6:前編:『りぼん』1974年2月号〜6月号、RMC-90の1990年15刷で確認、後編:『りぼん』1974年7月号〜12月号、RMC-91の1989年15刷で確認

*7:『りぼん』1975年1月・2月号、RMC-76『こいきな奴ら』1987年20刷で確認

*8:『プチフラワー』連載、FC-446の1983年初版第1刷で確認

*9:1976年3月、H4.6.1版で確認

*10:集英社JC1031の1979年2刷

*11:少年画報社HC290の1980年初版1刷

*12:HC186の1978年重版

*13:ISBN4-09-197081-8

*14:確か『週刊少年マガジン』連載の、永井豪デビルマン』(1972-73年)や梶原一騎ちばてつやあしたのジョー』(1968-73年)にはタイポス系書体が登場しなかったものと思ふが、どうか。また、しげの秀一バリバリ伝説』のサーキット実況やハロルド作石ストッパー毒島』の球場実況は漢字・仮名ゴシックで、一方、『月刊少年マガジン』に1999年から連載中のハロルド作石BECK』では、電話声や放送声が漢字ゴシック仮名タイポスで、“流暢な英語”がファンテール横書き。

*15:『週刊少女フレンド』1977年18-23号、KC761の1980年20刷で確認

*16:『週刊少女フレンド』1975年7号より連載開始、KC676の1982年11刷で確認

*17:講談社BE・LOVE』連載、KC1133の2004年6刷で確認

*18:講談社BE・LOVE』連載、KC889の1998年1刷で確認