やはりJames Mosley『British type specimens before 1831: A hand-list』(1984, Oxford)の終盤や、それに続く年代の資料を地道に探さなければならないのだろうか……と思っていたところ、『Studies in Bibliography』に掲載された論文一覧にJohn Richardson Jr.「Correlated Type Sizes and Names for the Fifteenth through Twentieth Century」というペーパーがある(「SB」43巻251-272頁)ということに気がついた。
Richardson Jr.の執筆の動機として、研究者用の便利ツールを意図して書かれたJohn Tarr「The Measurement of Type」(1946/47『Library』s5-1)が存在するが残念ながら「寸法の換算ミスがあったり重大な誤植があったりする」――にも関わらず以後誰も修訂していないこと、またBowersによる「20行サイズ」だけでなくポイント換算値やPica換算値などと併記してあることが便利であること、などと説明されている(Tarrの誤りについては、Gaskell「Type Sizes in the Eighteenth Century」にも言及があった)。
末尾に、〈将来的には基礎資料となるべき活字見本を見定めて直接的に活字サイズが計測されるべき〉であり〈Updikeの「Chronological List of Specimens」*1が参照されよう〉などと書かれているのだけれど、Richardson Jr.自身あるいは他の人物の手によって、そうした後継研究が為されたのかどうか、今のところは判らない。
Harry Carter『Fournier on Typefounding; the Text of the Manuel Typographique(1764-1766)』(1930)のxxxv頁「Table of Body-Sizes」
Philip Gaskell「Type Sizes in the Eighteenth Century」(1592/53『Studies in Bibliography』5巻。先日記したメモに、Gaskellがまとめた活字サイズ一覧の件で後日何か書き足すかもしれない。)
Talbot B. reed『A History of the Old English Letter Foundries』(1887←この活字旧称の英仏独蘭伊西語対照表はInternet Archive経由で時折目にしていた。Richardson Jr.の注記によると、A. F. Johnsonによる増訂版が1974年に刊行されているらしいく、「増補」に色々と役立つ内容が書かれているような匂いがする。)
Allan Stevenson『Catalogue of the Botanical Books in the Collection of Rachel McMasters Miller Hunt』第2巻第1部「Introduction to Printed Books, 1701-1800」(HathitrustでFull Viewになっているのは2巻2部であるのが残念。国内では科博と京大理学部が持っていて、リプリント版を国際日本文化研究センターが所蔵。)
というわけで、振り出しに戻る。Mosley『British type specimens before 1831: A hand-list』をポチってしまった。
船便で届くまでの間に、「20行サイズ」の扱いに関する基礎テキストであるというFredson Bowers『Principles of Bibliographical Description』(初版1949、再版1962、1986)やG. Thomas Tanselle「The Identification of Type Faces in Bibliographical Description」(1966『Papers of the Bibliographical Society of America』60巻2号) を眺めておけるだろうか*2。
W. Craig Ferguson「A Note on Printers' Measures」(1962『Studies in Bibliography』15巻242-243頁)を見た。
「R. B. McKerrow stated that many composing sticks of different fixed length were used in early prnting shops.(R. B. McKerrowは、初期の印刷所では各々長さが異なる数多くの固定長組版ステッキが使われていたと述べている。)〈『Introduction to Bibliography for Literary Students』1959、64頁*1〉」という最初の1文から、目ウロコだった。
JSTORでバックナンバーが読める『Studies in Bibliography』掲載ペーパーのうち、Fredson Bowersの一番古いものと思われる「Some Relations of Bibliography to Editorial Problems」(1591/51「SB」3巻37-62頁)を斜め読みしてみた。
Analytical Bibliography(分析書誌学)がtextual criticismにとってどれほど重要な(新しい)武器なのかということを、W. W. Greg、McKerrow、Fergusonといった先行者の仕事を挙げながら説いていく、という内容。
――ということを前提に、にも拘らず例えばAlexander Wilson and Sonsの1772年活字見本帳では上記の常識的な活字セットだったところが、同1773年見本帳ではtitling活字なのに小文字も含まれるようになっており、これはCaslonやFryの見本帳でも同様、と。
Gaskellは2つの可能性を指摘していて、1つは例えば「5 Line Pica」と名付けたtitling活字――おそらく従来大文字のみのセットでPica活字5倍にほぼ等しい文字ヅラをPica活字5倍のボディーに鋳込んでいたもの――をPica活字6.75倍とかに鋳込んでいる状態。もう1つは、小文字「g、j、p、q、y」のディセンダーを「カーンド」の状態に鋳造しているケース。
目当ては1852年に上海のLondon Mission Pressで印刷された『Reply to Dr. Boone's Vindication of Comments on the Translation of Ephes』で、Internet Archiveで公開されているハーバードの資料によって、往時の本文用欧文活字をメインに四号漢字活字を少し交えて刷られている印刷物であることが判っていた。
検索で所蔵を確認していた一橋本(Og687)は、実際には他の様々なブックレット類*1を合綴したもの(Miscellaneous on China)になっていて、この末尾近くに当該資料があった。
『A dictionary of the art of printing』に掲げられている1841年の英国主要活字ベンダーの活字サイズ表を参照しつつ88行/ft〜92行/ftの刻みでLong Primer用活字スケールを作っていた訳なのだけれども、この目盛りでは計りきれなかった(92行/ftよりも小さかった)。
ちなみに、『A dictionary of the art of printing』に記されているLong Primer活字の寸法は、Caslon社が89行/ft(約3.42mm)、V. and J. Figgins社が90行/ft(約3.39mm)、Thorowgood and Besley社が92行/ft(約3.31mm≒20行サイズが66.25mm)、Alexander Wilson and Sons社が89行/ftとなっている。
国会図書館が持っている推定1870年代のH. W. Caslon社の活字見本帳『Specimens of printing types of the Caslon Letter Foundry』に掲載されているLong Primerは実測で89行/ft。印刷博物館が持っているMS&J社の1878(明治11)年見本帳と1888(明治12)年見本帳に掲載されているLong Primerは89.5〜90行/ft。