日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

1850年頃の上海London Mission Pressが使っていたLong Primer活字

上海美華書館のWilliam Gambleが長崎の本木昌造に伝えた漢字活字群のうち、ロンドン伝道会(LMS)ルートで開発されて上海に渡った「一号=Double Pica」活字と「四号=Three-Line Diamond」活字。

LMSの印刷物で「四号」漢字活字と同時に使われている、一見すると四号の3分の2サイズに思われる欧文活字の実際の大きさはどのようなものだったかということが知りたくて、昨秋初めて一橋大学附属図書館を訪れた。日祝も開館している、ありがたい大学図書館のひとつ。

目当ては1852年に上海のLondon Mission Pressで印刷された『Reply to Dr. Boone's Vindication of Comments on the Translation of Ephes』で、Internet Archive公開されているハーバードの資料によって、往時の本文用欧文活字をメインに四号漢字活字を少し交えて刷られている印刷物であることが判っていた。

検索で所蔵を確認していた一橋本(Og687)は、実際には他の様々なブックレット類*1を合綴したもの(Miscellaneous on China)になっていて、この末尾近くに当該資料があった。

『A dictionary of the art of printing』に掲げられている1841年の英国主要活字ベンダーの活字サイズ表を参照しつつ88行/ft〜92行/ftの刻みでLong Primer用活字スケールを作っていた訳なのだけれども、この目盛りでは計りきれなかった(92行/ftよりも小さかった)。

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欧文活字用「内田スケール」Long Primer/Small Pica/English

考えてみれば、「四号=Three-Line Diamond」漢字活字が概ね4.80〜4.81mm角だということが事前に判っていて、その3分の2程度の大きさだという目算が立っていたのだから、LMSのLong Primer活字が3.2mm程度の大きさ――つまり95〜95.25行/ft程度の小ささである可能性を考慮したスケールを作っておかなければならなかったのだ。

実際にはLeading無し48行分の行高が約158.5mm(計算上20行サイズが略66mm)だったので、このLong Primer活字の大きさは「四号」活字の3分の2よりは少し大きく、3.302mm(92.25行/ft)程度であろうと思われた。

ちなみに、『A dictionary of the art of printing』に記されているLong Primer活字の寸法は、Caslon社が89行/ft(約3.42mm)、V. and J. Figgins社が90行/ft(約3.39mm)、Thorowgood and Besley社が92行/ft(約3.31mm≒20行サイズが66.25mm)、Alexander Wilson and Sons社が89行/ftとなっている。

国会図書館が持っている推定1870年代のH. W. Caslon社の活字見本帳『Specimens of printing types of the Caslon Letter Foundry』に掲載されているLong Primerは実測で89行/ft。印刷博物館が持っているMS&J社の1878(明治11)年見本帳と1888(明治12)年見本帳に掲載されているLong Primerは89.5〜90行/ft。

このくらいの違い(20行サイズが66.0mmか66.25mmかという違い)なら、LMSの欧文活字はThorowgood系統の可能性が高い――と思ってしまっていいだろうか。Thorowgoodの活字見本帳を幾つか実測してみたら、Long Primerが92行/ft~93行/ftくらいの揺らぎがあったりするんだろうか。LMSの他サイズの欧文活字も改めて計ってみなければ……。

*1:W.H. Medhurst「Reply to the few plain questions of a brother missionary, (published in the Chinese repository for July 1848)」他