日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

戦前戦中期の中島飛行機と飛翔体を探す

連休中、大澤弘之監修『新版日本ロケット物語』(asin:4416203055)と松岡久光『日本初のロケット戦闘機秋水』(asin:4895223922)ば借覧してゐた。
メッサーシュミットMe-163の技術資料ば命懸けで持ち帰る様だとかその後の苦心談は面白びっくりだども、己が欲しいのはそこぢゃないと判明。
『新版日本ロケット物語』の戦前戦中期の話題に関する参考文献として掲げられたものを一応リストアップ。
高須鶴三郎解説『りあぶちんすきー氏高速流体力学解説』(仙台書院、1944年)
岩永光次『ロケット』(共立出版、1943年)
科学画報臨時増刊『最新兵器の驚異』(新光社、1932年)
村田勉『私の研究余禄(海軍12年、会社45年)』(1990年)
千藤三千造『機密兵器の全貌 わが軍事科学技術の真相と反省(Ⅱ)』(興洋社、1952年)
千藤三千造『陸戦兵器の全貌(上) わが軍事科学技術の真相と反省(Ⅴ)』(興洋社)
竹内昭・佐山二郎『日本の大砲』(出版共同社、1986年)
木俣郎『帝国陸軍兵器考』(雄山閣)
佐山二郎「日本海軍の噴進砲」(サンデーアート社『パンツァー』1993・1所収)
中川靖造『海軍技術研究所エレクトロニクス王国の先駆者たち』(asin:4532094453日本経済新聞社、1987年)
内藤初穂『機密兵器 奮龍』(図書出版社、1979年)
マーチン・ケイディン「第2次大戦中の日本の誘導弾」(鳳文書林『世界の航空機』1956・12号所収)
これで掲載分の全部ぢゃねぇんだども、飛翔体が濃いと感じられるものは以上かと。
引き続き中川『海軍技術研究所』ば借覧したんだども、レーダーの研究に関する本で、飛翔体の語は出て来ない。
……
そんな日々を経て、今日は帰宅してから林紀幸・垣見恒男『昭和のロケット屋さん』(asin:9784767805221)ば読み始めた。
後にスカイラインを生み出した富士精密工業が解体前には中島飛行機のエンジン部門であり、ライバル社である三菱が機体を作ってゐたゼロ戦のエンジンをも作ったといふことは知ってゐたんだども、さうした“日本で最も優秀な技術者集団”の仕事ぶりを垣間見せてくれる垣見氏の話っぷりに萌える。例えば68-69頁。

私の入った富士精密の設計というのは、もとは中島飛行機ですからたいへん伝統がありました。設計舞台には、まず頭で考える設計屋がいます。設計屋はだいたいフリーハンドで描くんですね。設計屋が計算したりして概念的なものを描いたら、次はそれをきれいな図面にする製図工という図面屋がいる。それが製図課。
中島のいいところはね、図面の品質をコントロールする統制班というのがあった。できた図面に無駄がないように、統制班で全部チェックするんです。
たとえばあるところをボルトで留めようとします。ボルトは何ミリ、ナットの厚さは何ミリといった標準部品というのがあってね、以前に設計された部品が使えないかということを、設計のベテランが全部調べます。そうすると部品の点数を少なくできるわけです。そういう統制をする。統制班をパスした図面でものが作られる。これが中島の伝統なんです。

そんな話の少し後、ペンシルロケットからベビー・カッパに至る大きなサイズのロケット燃料を成型する型の話題が続いた82頁の記述に、今、眼が釘付け。

松浦:110ミリっていうのは、実は特攻兵器の「桜花」のためのエンジンだった。110ミリの押し出し成型器はなぜ後になって見つかったかというと、敗戦のときに日本油脂が「持っていかれちゃ困る」っていうことで全部バラして倉庫に隠してたっていうんです。それが「東大に売れそうだ」っていうことで持ち出したらしいんですね。だから1年ぐらい遅れたっていう。
垣見:日本油脂の中にも、そういう歴史を知ってる方がいます。だけど本当に知ってる人はみんな死んじゃいました。

ペンシルロケットがなぜあの形と寸法なのかっていう秘話や、カッパの寸法も同様に決まったといふ話、LD-3計画中止の理由なんかも、リアルなものづくりの話として非常に興味深かったんだども、Wikipediaが記してゐる「中島飛行機は終戦直前にはドイツからの技術情報等に基づき、ジェットエンジンやロケットエンジンの独自開発にも着手していた。」といふ話ば確認すべく、以下の要チェック文献を追加メモ。
高橋泰隆『中島飛行機の研究』(asin:4818802336)
桂木洋二『歴史のなかの中島飛行機』(asin:4876872333)
麻島昭一「戦時体制期の中島飛行機」(『経営史学』第二十巻第三号、Wikipediaの記事は括弧のつけ方が変。)
「新橋会」の話はこれ以上出てくるこたぁ無えべなぁ……と思ひながら、『昭和のロケット屋さん』を今日のうちに読み終えた己。