先日、大阪朝日堂活版製造所が鋳造した初号明朝活字を入手しました。

「朝日堂活版製造所の朝日印ピンマークと㊹ピンマークが同じ面に刻印された初号フェイス42ptボディ活字」(2024-04-14)との違いや、他の「二重円型」ピンマークとの違いをより良く記録するためにどういう用語があればいいかと考えてみたのが、昨日の「大阪青山進行堂の初号活字と一号活字・二号活字でピンマークのフォーマット類型を考える」だったのでした。
「朝日堂活版製造所の朝日印ピンマークと㊹ピンマークが同じ面に刻印された初号フェイス42ptボディ活字」には、「メーカー標」として「朝日印」が鋳記され、また「サイズ標」として(実寸が42 American point bodyであるにもかかわらず当時の日本の特殊事情から)「44」という数字が鋳記されているのでした。
今回取り上げる朝日堂が鋳造した「二重円型」ピンマーク入り初号明朝活字は、内枠の外周を明確に示す円は描かれていませんが、類型としては、①外周に回文*1があり、②内枠にメーカー標がある――という点で「二重円型」のフォーマットに則ったピンマークと考えます。

内枠の外周を明確に示す円が描かれていないということ以外にも、他の「二重円型」ピンマークには見られなかった特徴があります。これまでに見てきた「二重円型」ピンマークでは、回文が次のように「メーカー名」と「都市名」を記載するものでした。
- 青山進行堂「AOYAMA・OSAKA」(「大阪青山進行堂のピンマーク6種と活字書体3種(付:青山督太郎の略歴と生没年――没年の典拠情報求む――)」)
- 盛功社「NAGOYA・SEIKOUSHA」(「盛功合資会社または合資会社盛功社活版製造部のものではないかと思われる「NAGOYA 青 SEIKOUSHA」ピンマーク入り初号明朝活字について」)
- 大阪活字鋳造「OSAKA・KATSUJI」(「「桜に大」は大阪活字鋳造株式会社のピンマークと思っていいでしょうか」)
- 浪速活版「NANIWA・OSAKA」(「浪花活版(浪速活版)のピンマーク「梅にS」は盛功社の「S」由来と思い至った結果「NANIWA Ⓢ OSAKA」というピンマークも浪速活版(浪花活版)なのだろうと #NDL全文検索 で推定する話」)
今回の朝日堂活版製初号活字では、回文テキストがローマ字を用いずに「大日本大阪電天988」と鋳記されています。「大日本大阪」までは「都市名」を表していると言えなくもありません。「電天988」は電話番号が天王寺局の988番であるという意味。「朝日堂活版製造所の朝日印ピンマークと㊹ピンマークが同じ面に刻印された初号フェイス42ptボディ活字」で触れた広告類にある通り、朝日堂の電話番号は「天王寺988番」でした。ここまでが、ユニークな点その1。
そしてユニークな点その2。「メーカー名」・「都市名」型の回文は、北半分が中心側を下にして記され、南半分が外周を下にして記されているのですが、今回の朝日堂活版製初号活字では、回文テキスト全文が中心側を下にして記されています。
大陸や半島など「海外」も販路として考慮していたtypefounderと国内販売のみを行っていたところの違いだったりするのか――等、色々と想像をかきたてられるピンマークです。
*1:二重円型ピンマークの外周に沿って円弧状に配置されているテキストを印章類の慣習に依拠して「回文」と呼ぶことにします。