日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

宮澤賢治『春と修羅』初版(関根書店、大正13〔1924〕)各本の様々な込物飛び出し跡とTypographic errorなど

先日の「宮澤賢治『春と修羅』初版本に使われている活字のうち盛岡の山口活版所から買い足されたものを想像する(前篇)――大正末の山口活版所の仮名活字はどのようなものだったか――」「宮澤賢治『春と修羅』初版本に使われている活字のうち盛岡の山口活版所から買い足されたものを想像する(後編)――大正活版所(吉田印刷所)の規模感と漢字活字セット――」を書いた後になってようやく、森荘已池「『春と修羅異稿について」(『宮沢賢治全集 別巻』〔筑摩書房昭和441969年〕、111-124頁)、『校本 宮澤賢治全集 第二巻』(筑摩書房昭和481973年、以下『S48校本』)、『【新】校本 宮澤賢治全集 第二巻 詩Ⅰ校異篇』(筑摩書房平成71995年、以下『H7新校本』)を手に取ってみました。

宮沢清六「燻淨された原稿」(『四次元』第7巻第4号〔宮沢賢治友の会、昭和401965年4月〕1-3頁/復刻版『宮沢賢治研究 四次元 第4冊』〔国書刊行会昭和571982年〕1377-1379頁)において、昭和201945年8月10日の空襲で焼けてしまった宮澤家の土蔵から『春と修羅』入稿原稿が再発見された状況が報告されていたわけなのですが。森荘已池「『春と修羅異稿について」によると「この原稿を見て、先ず目につくのは、吉田印刷所にない活字を示すために、赤インクで丸を書いてあることである」と書かれていた「吉田印刷所にない活字」が何であったかについて、『H7新校本』では「『春と修羅』詩集印刷原稿に関する補説」で網羅的に示されているのでした(『H7新校本』166-169頁)。びっくり。

国会図書館デジタルコレクションの『春と修羅』初版本を眺めて、「吉田印刷所にない活字」に関係があるのか無いのかと気になっていた「込物飛び出し跡Spacing material work-up」なのですが、幾つか見比べていったところ諸本の間に思いのほか違いがあることが見えてきて、各本に見える「込物飛び出し跡」の違い自体が面白くなってきました。

今後各地に存在する初版原本を閲覧させていただく機会に恵まれた際に活用するため、2025年4月時点で気がついた「込物飛び出し跡」を比較表の形で取りまとめておきます。

思ったより多くの違いがある――ということに気づいていない段階で閲覧させていただいた日本近代文学館蔵本と東京都立多摩図書館蔵本は、どちらも全体を通してチェックしたつもりではあるのですが、他の本で出現していた飛び出し跡の確認という意識が薄かった箇所については飛び出し跡の有無を示すメモを残していなかったため「?」とせざるを得ない状況です。ひょっとすると他にも多くの見落としがあるかもしれません。お気づきの方がいらしたら、お教えください。

このメモは距離的に一番近い仙台文学館を再訪して「?」を減らしてから公開するつもりでいたのですが、「B公開制限」資料のため予定を調整して訪問する必要があり、なかなか再訪を果たせそうにないことから、不十分な内容と思いながらも現状で公開してしまうことにしました。

宮澤賢治春と修羅』初版各本の込物飛び出し跡とTypographic errorなど

込物飛出し跡はいわゆるテキストに関わらない印刷ミスのため、全集等で言及されていないようですが、個人的にとても面白がっているものです。大半は本文の字間に使われている四分スペースが浮き上がってインクが付着してしまったもので、表中では「■」で示しました。

Typographic errorはいわゆるテキストに関係する印刷ミスを含むため全集等で言及されている箇所がある――と、後から知りました。あるべき(であろう)文字が消失している箇所は「□」で示しました。活字の受傷や摩滅またはインク不足あるいはその組み合わせによって各文字の一部画線が欠落したように見える箇所が複数文字や複数行に及んでいるような状態を「不定カスレUneven inking」としました。また複数行等にわたって文字写りが薄墨状になっているものを「インク薄弱」や「インク極薄」としました。活字の摩滅等によって不自然に太字になっている箇所が幾つもあることにも気づいていますが、現時点では観察対象外としています。

表の略称:

頁/行内容国会今井近森多摩近代仙台
3/ノンブル形式下線 下線 下線(n)下線下線
4/ノンブル形式下線 下線 下線(n)下線下線
5/ノンブル形式下線 下線 下線(n)下線下線
6/ノンブル形式下線 下線 下線(n)下線下線
7/ノンブル形式下線 下線 下線(n)下線下線
8/ノンブル形式下線 下線 下線_(_n_)_下線下線
15不定カスレUneven inking前から6-7行目 7行目「た」 7行目「た」
35/不定カスレUneven inking特になし 末3行 最終行「え」
36/ノンブル状態あり 極薄 あり
43/3熖■をナシ ナシ あり
43/4ゆき■きナシ ナシ あり
46/2たほれて■あり あり ありあり
52/ノンブル状態極薄 あり あり極薄
53/ノンブル状態極薄 あり あり極薄
60/ノンブル状態極薄 □□ あり極薄
65/7「あるひ」はあるひ あるひ あるひ□□□
74インク薄弱前4行 前4行・全行冒頭
75インク薄弱末3行 末3行 特になし
77/6fluorescencefl.. fl.. fl..
78/1の■だこの鳥■のあり ナシ ありあり
79/-3「並樹に」(薄い) 並樹に 並□□
79/-2飾繪「式だ」式だ 式だ 式□
79/-1偶然「だから」□□□ だから だか□
102/2から■松ナシ あり ナシ
106/3雨■でか■へ薄い 薄い 薄い極薄
114インク薄弱前2行 前4行 前2行
120/mentalsketchmodified
(下から上・空白ナシ)
ママ ママ ママ
129インク極薄全行 全行 5-7行太り
133インク薄弱全行 全行 全行
136インク薄弱全行 全行 特になし
144/5たう■たうあり あり 薄いあり薄いあり
145/8四■角あり あり ありありありあり
149/-2月■光薄い 極薄 ナシナシナシナシ
149/-1で■す薄い 薄い ナシナシナシナシ
156不定カスレUneven inking前2行 全行 各行3-7文字目辺
158/-1の■雲あり 薄い 薄いありありあり
159/6鋼■青薄い 極薄 薄いナシありあり
161インク薄弱前8行 前8行 前6行
164インク薄弱全行 特になし 特になし
165インク薄弱全行 特になし 前1行
168インク薄弱全行 全行 末6行
170不定カスレUneven inking前3行軽度 前3行 前3行
171不定カスレUneven inking特になし 末1行 末3行
198インク薄弱全行 特になし 特になし
199インク薄弱全行 特になし 特になし
200不定カスレUneven inking各行5-10文字目辺 インク薄弱 インク薄弱
207/ノンブル位置小口 小口 小口小口小口小口
208/ノンブル位置小口 小口 小口小口小口小口
211/2ルビ■ヅウナシ ナシ ナシありナシ
224/5まも■つてナシ ナシ ナシナシありナシ
226/4あ■いつ薄い あり ありありナシあり
228/-1ルビる■りえき■だあり ナシ ナシナシナシ
228/-1瑠■璃液■だあり ナシ ナシ瑠■璃液だナシナシ
236/-1「お」まへ転倒 転倒 転倒
241インク薄弱各行3-6文字目 少し薄め 少し薄め
244/ノンブル状態極薄 極薄
247/-3三■稜ナシ 薄い ナシありあり薄い
258/1行頭「粗剛な」□□□ 粗剛な 粗剛な
259/-5雲■が■う薄い ナシ ナシ薄い極薄
272インク薄弱6-8行 特になし 少し薄め
290/4月■光ナシ あり ありありあり
295不定カスレUneven inking全行 特になし 特になし
300/ノンブル「800」800 800 800
目次1/恋と熱病(一九二、二二、二 二、二 二、二
目次6/章題無■聲慟哭ナシ あり ナシナシ
目次7/樺■太鉄道あり ナシ ナシあり
目次7/鈴■谷平原あり ナシ ナシあり