日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

★印ピンマーク入り初号活字は東洋活版製造所が鋳造したものであろうと判断するに至った話

少し前に、「★」印のピンマーク入り初号活字を入手していました。

「★」印ピンマーク入り初号フェイス活字(斜め方向)
「★」印ピンマーク入り初号フェイス活字(ピンマーク正面方向)

先日の「丸に篆書「木」のピンマークは木戸活字のものなのか興文堂あるいは鶴賀活版のものなのか #NDL全文検索 で館内限定資料から手がかりを得た話」は、往時の名鑑類を私的データベース化するという形で外堀を埋めておいたことが未知の文字商標系ピンマークの特定に役立った話だったわけですが。

今回は、文字商標系ではなく未知の図形商標系ピンマークについて。

ウェブ資源化されている商標公報

もしも『商標公報』が全号現存していてかつウェブ資源化されていれば、それを縦覧し「第7類」から活字に関係するものを抜き出すことで最もよい資料が作成できると考えられるのですが、残念ながら『商標公報』は少なくともウェブ資源は大きく欠けている状態です。更に残念なことに、数少ない現存公報には「活字」に関連するものが全く含まれていません。

ウェブ資源化されている『日本登録商標大全』『日本政府登録商標大完』

工業製品としての活字は「第7類(他類ニ屬セサル金属製品)」で登録されましたから、「大全」では上巻、また「大完」では6・7・8類を掲載した巻のみリストアップしておきます。

『日本登録商標大全』
『日本政府登録商標大完』

「印刷業者名鑑」類や業界紙の広告

以上のような状況を踏まえて、先日の「丸に篆書「木」のピンマークは木戸活字のものなのか興文堂あるいは鶴賀活版のものなのか #NDL全文検索 で館内限定資料から手がかりを得た話」で触れた通り、現時点では「印刷業者名鑑」類や業界紙の広告から商標に類するものを拾い出していくのが最も多くの情報を集められる手段と考えました。

大正11年版『全国印刷業者名鑑』(印刷材料新報社、https://dl.ndl.go.jp/pid/970397、大正15年版『全国印刷業者名鑑』(印刷材料新報社、https://dl.ndl.go.jp/pid/970398昭和10年版『全国印刷材料業者総攬』(印刷興業時報社、https://dl.ndl.go.jp/pid/1234542に掲載されている広告類から活字商の商標を拾い出して一覧を作成し、更にNDL送信資料の『日本印刷界』(日本印刷界社、https://dl.ndl.go.jp/pid/1616457や『印刷時報(大阪出版社、https://dl.ndl.go.jp/pid/1615162に掲載された広告類で補強した内容を、さしあたって事業者名の50音順にならべてみた状態です(現時点では未公開)。

T11名鑑・T15名鑑・S10総攬等に基づく商標一覧(仮称「日本の活字のピンマーク」)より

東洋活版製造所について

『印刷時報昭和15年1月号広告を見ると、「東洋活版製造所」という社名の前に「★」が掲げられていますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1499108/1/160。先ほど挙げたT11名鑑、T15名鑑、S10総攬や、『日本印刷界』、『印刷時報』では他に活字系で「★」を用いているところは見られないので、東洋活版製造所を有力候補としておきましょう。

『印刷時報昭和15年1月号広告には営業品目が示されていませんが、大正9年9月27日付『官報』の株式会社東洋活版製造所設立登記公告によると「目的諸印刷活版製造販売及之レニ附隨スル一切ノ業務」となっていますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/2954560/1/10。また大正11年の広報通信社調査部『大阪京都名古屋神戸問屋便覧 3版』「神戸の部」では「活字商」として東洋活版製造所の名が掲げられていますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/961855/1/242。間違いなく活字の製造販売を行っていたと見ていいでしょう。

大阪大観社『近畿商工茂績』(大正15年)に記された東洋活版製造所・重松嘉市郎の略歴にもhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1014814/1/67、各種活字・欧文花形・欄罫込物類などの製造販売が営業科目として掲げられています。また、この略歴に示されている通り株式会社東洋活版製造所は「其後世界の沈衰と共に同社も亦經營難に陥り開業の翌年解散」とある通り大正10年7月末に清算されています大正11年1月9日付『官報』https://dl.ndl.go.jp/pid/2954944/1/16。以降は株式会社ではない組織体で営業が継続していたようです。

森川健市「活字製造業のいまむかし(後半)」(『印刷時報』370号〈1975年3月〉90-93ページ)にも、昭和14年西日本活字工業組合員名簿からの引用で、兵庫県の事業者として東洋活版製造所の名が「(販)」抜きで――つまり大手の販売代理店ではなく自ら鋳造販売を行う事業者の扱いで――掲げられていますhttps://dl.ndl.go.jp/pid/11434833/1/60