少し前に、「★」印のピンマーク入り初号活字を入手していました。


先日の「丸に篆書「木」のピンマークは木戸活字のものなのか興文堂あるいは鶴賀活版のものなのか #NDL全文検索 で館内限定資料から手がかりを得た話」は、往時の名鑑類を私的データベース化するという形で外堀を埋めておいたことが未知の文字商標系ピンマークの特定に役立った話だったわけですが。
今回は、文字商標系ではなく未知の図形商標系ピンマークについて。
ウェブ資源化されている商標公報
もしも『商標公報』が全号現存していてかつウェブ資源化されていれば、それを縦覧し「第7類」から活字に関係するものを抜き出すことで最もよい資料が作成できると考えられるのですが、残念ながら『商標公報』は少なくともウェブ資源は大きく欠けている状態です。更に残念なことに、数少ない現存公報には「活字」に関連するものが全く含まれていません。
- 明治22年~23年、第13号・14号・18~21号・28号(国立公文書館デジタルアーカイブ:https://www.digital.archives.go.jp/img/1240774)
- 明治29年1月、第116号、登録第7018号~7064号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987583)
- 明治30年3月、第140号、登録第8037号~8081号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987584)
- 明治30年3月、第141号、登録第8082号~8122号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987585)
- 明治30年5月、第144号、登録第8216号~8253号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987586)
- 明治38年11月、第466号、登録第24482号~24541号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987587)
- 明治38年11月、第468号、登録第24598号~24627号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987588)
- 明治38年11月、第469号、登録第24645号~24693号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987589)
- 明治38年12月、第472号、登録第24803号~24855号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987590)
- 明治38年12月、第473号、登録第24856号~24915号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987591)
- 大正14年、第701号、登録第15901号~16200号(NDL:https://dl.ndl.go.jp/pid/987592)
ウェブ資源化されている『日本登録商標大全』『日本政府登録商標大完』
工業製品としての活字は「第7類(他類ニ屬セサル金属製品)」で登録されましたから、「大全」では上巻、また「大完」では6・7・8類を掲載した巻のみリストアップしておきます。
『日本登録商標大全』
- 明治38年『日本登録商標大全 上巻』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12360245)【該当商標あり、大阪活版製造所:明治33年第99号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12360245/1/329、東京築地活版製造所:明治24年第3748号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12360245/1/330】
- 明治41年『日本登録商標大全 第2輯上巻』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12360557)
- 明治44年『日本登録商標大全 第3輯上巻』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12359389)
- 大正2年『日本登録商標大全 第5輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394791)【該当商標あり、東京築地活版製造所:明治45年第50811号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12394791/1/167】
- 大正3年『日本登録商標大全 第6輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394792)【該当商標あり、弘道軒:大正2年第57173号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12394792/1/130、浪花活版製造所:大正2年第62092号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12394792/1/167】
- 大正4年『日本登録商標大全 第7輯上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12363882)【該当商標あり、東京築地活版製造所:大正3年第63249号・63250号・63251号・63252号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12363882/1/182】
- 大正5年『日本登録商標大全 第8輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394793)
- 大正6年『日本登録商標大全 第9輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394795)
- 大正6年『日本登録商標大全 第10輯』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394797)
- 大正8年『日本登録商標大全 第11輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394798)【該当商標あり、秀英舎:大正7年第91389号・91391号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12394798/1/156】
- 大正9年『日本登録商標大全 第12輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394927)【該当商標あり、東京築地活版製造所:大正7年第96114号:https://dl.ndl.go.jp/pid/12394927/1/65】
- 大正10年『日本登録商標大全 第13輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394929)
- 大正11年『日本登録商標大全 第14輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394931)
- 大正11年『日本登録商標大全 第15輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394933)
- 大正11年『日本登録商標大全 第16輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394956)
- 大正12年『日本登録商標大全 第17輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394958)
- 大正13年『日本登録商標大全 第18輯 上』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394960)
- 昭和5年『日本登録商標大全 第25輯 上巻』(https://dl.ndl.go.jp/pid/12394963)
『日本政府登録商標大完』
- 昭和12年『日本政府登録商標大完 第6,7,8類』
- 秀英舎:76コマ⑤⑥(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/76)
- 東京築地活版製造所:77コマ⑬(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/77)
- (大阪活版製造所)谷口黙次:86コマ⑤(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/86)
- 博文館印刷所:103コマ⑯(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/103)
- 日本タイプライター:122コマ⑥(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/122)
- (字母宗)小倉宗吉:124コマ⑫(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/124)
- (青山進行堂)青山督太郎:149コマ⑫(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/149)
- 東京築地活版製造所:166コマ⑦(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/166)
- 東京築地活版製造所:167コマ㉖㉗(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/167)
- 大日本印刷:172コマ㉔(https://dl.ndl.go.jp/pid/1207897/1/172)
「印刷業者名鑑」類や業界紙の広告
以上のような状況を踏まえて、先日の「丸に篆書「木」のピンマークは木戸活字のものなのか興文堂あるいは鶴賀活版のものなのか #NDL全文検索 で館内限定資料から手がかりを得た話」で触れた通り、現時点では「印刷業者名鑑」類や業界紙の広告から商標に類するものを拾い出していくのが最も多くの情報を集められる手段と考えました。
大正11年版『全国印刷業者名鑑』(印刷材料新報社、https://dl.ndl.go.jp/pid/970397)、大正15年版『全国印刷業者名鑑』(印刷材料新報社、https://dl.ndl.go.jp/pid/970398)、昭和10年版『全国印刷材料業者総攬』(印刷興業時報社、https://dl.ndl.go.jp/pid/1234542)に掲載されている広告類から活字商の商標を拾い出して一覧を作成し、更にNDL送信資料の『日本印刷界』(日本印刷界社、https://dl.ndl.go.jp/pid/1616457)や『印刷時報』(大阪出版社、https://dl.ndl.go.jp/pid/1615162)に掲載された広告類で補強した内容を、さしあたって事業者名の50音順にならべてみた状態です(現時点では未公開)。

東洋活版製造所について
『印刷時報』昭和15年1月号広告を見ると、「東洋活版製造所」という社名の前に「★」が掲げられています(https://dl.ndl.go.jp/pid/1499108/1/160)。先ほど挙げたT11名鑑、T15名鑑、S10総攬や、『日本印刷界』、『印刷時報』では他に活字系で「★」を用いているところは見られないので、東洋活版製造所を有力候補としておきましょう。
『印刷時報』昭和15年1月号広告には営業品目が示されていませんが、大正9年9月27日付『官報』の株式会社東洋活版製造所設立登記公告によると「目的諸印刷活版製造販売及之レニ附隨スル一切ノ業務」となっています(https://dl.ndl.go.jp/pid/2954560/1/10)。また大正11年の広報通信社調査部『大阪京都名古屋神戸問屋便覧 3版』「神戸の部」では「活字商」として東洋活版製造所の名が掲げられています(https://dl.ndl.go.jp/pid/961855/1/242)。間違いなく活字の製造販売を行っていたと見ていいでしょう。
大阪大観社『近畿商工茂績』(大正15年)に記された東洋活版製造所・重松嘉市郎の略歴にも(https://dl.ndl.go.jp/pid/1014814/1/67)、各種活字・欧文花形・欄罫込物類などの製造販売が営業科目として掲げられています。また、この略歴に示されている通り株式会社東洋活版製造所は「其後世界の沈衰と共に同社も亦經營難に陥り開業の翌年解散」とある通り大正10年7月末に清算されています(大正11年1月9日付『官報』https://dl.ndl.go.jp/pid/2954944/1/16)。以降は株式会社ではない組織体で営業が継続していたようです。
森川健市「活字製造業のいまむかし(後半)」(『印刷時報』370号〈1975年3月〉90-93ページ)にも、昭和14年西日本活字工業組合員名簿からの引用で、兵庫県の事業者として東洋活版製造所の名が「(販)」抜きで――つまり大手の販売代理店ではなく自ら鋳造販売を行う事業者の扱いで――掲げられています(https://dl.ndl.go.jp/pid/11434833/1/60)。