日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

秀英舎『七ポイント半假名附活字見本』に見えないカタカナルビ付活字

1月に開催された〈連続セミナー「タイポグラフィの世界」6〉第3回「日本語活字を読み込む」の翌日、横浜開港資料館で、移管作業中の小宮山博史コレクションから幾つか資料を見せていただいた。

そのうちの1つに、秀英舎販売課名義で大正15年6月に発行された『七ポイント半假名附活字見本』がある。

巻末の「内訳」には、次のように記載されている。

漢字 一万三千五百四十字
数字 百十九字
仮名 百七十三字
太字仮名 百六十字
ゴヂック仮名 百七十二字
印物 二十一種
約物 五十六種

以前〈石井「『九ポイント假名附活字見本帳』に見るルビ付き活字」に寄す〉に記した通り、大日本印刷は同年刊の『七ポイント七五假名附活字見本帳』は所蔵しているが、この七ポ半仮名付は大日本印刷にも印刷図書館・印刷博物館にも無い資料である。石井氏が取り上げた昭和4年版の九ポ仮名付や大日本印刷所蔵の大正15年版七ポ七五仮名付同様、ひらがなルビ付活字とカタカナルビ付活字の両方が含まれている。

石井久美子「『九ポイント假名附活字見本帳』に見るルビ付き活字:外来語定着の一側面」に掲載されているカタカナルビ付活字の冒頭部分(【イ部】〜【ヘ部】)と比べると、下に掲げるこの七ポ半仮名付には例えば「把ハン」「河ハノ」「尼ニヤ」「新ニュー」「白ベー」「伯ベ」「黒ベ黒ペ」等が無い、というようなことが判る。

大正15年の七ポ半活字なら主に新聞がターゲット、昭和4年の九ポなら雑誌や単行本がターゲットと考えられるので、そうした媒体での用例が、これらの語彙(を表記するためのカタカナルビ)の有無の違いになっているのか、大正15年と昭和4年という刊行年の違いが語彙の多寡に結びついているのか。

石井氏が着目された通り、やはり「仮名付」活字見本帳は、国語文字・表記史の観点から、興味深い資料と言える。

残念ながら、あの日見た秀英舎『七ポイント半假名附活字見本』に「河ハノ」「尼ニヤ」等が収録されていない理由を僕(達)はまだ知らない。