日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

候文のアレ

先日 id:karpa さんにお教えいただいていた、『漢字講座』8「近代日本語と漢字」と、ついでに同7「近世の漢字とことば」、同9「近代文学と漢字」を眺めてみていた。
この中では、「近代日本語と漢字」isbn:4625520886 に収録されている貝美代子「書簡文の漢字」が最もこの話題に近いのだけれど、根本的な問題意識が全く異なっているので、お互いにうまく話が通じない感じの内容だった。
例えば、「みんなで翻刻」の対象資料にもなっている、東大地震研「安政二乙卯年十月二日大地震之事」の十月十六日のあたりのように、極力漢字を崩さないで書かれているところにおける「候」「之」「而」なんかの崩しっぷり(と小書きっぷり)は、これらの文字が「使用率上位の漢字」としてではなく〈候文に特徴的な、仮名に準ずる一種の記号〉として書かれているんじゃないかと思えてならない。



同じく id:karpa さんにお教えいただいていた矢田勉『国語文字・表記史の研究』isbn:9784762936029 第三章「候文の特質Ⅰ」の「六 候文における「候」字の機能」465頁には、「候」字が草書の《非常に崩された字形》で書かれたり更に《「ゝ」によるような表記さえ可能であった》ことについて、《「候」にはもはや語彙的意味はなく、したがって視覚上、漢字「候」が字形として明確に示される必要が全くといっていいほどなかった、ということなのである》と記されている。
やはり、〈仮名に準ずる一種の記号〉と言ってしまった方がスッキリするんじゃないだろうか。