日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

自由(フリー)日本語フォント「Oradano明朝フォント」十年半ぶりのアップデート「第二弾」リリースについて

以下、「無料」和レトロフォントあるいは「無料」活版テクスチャ素材フォントといった形で「フリーフォント」であるOradano明朝フォントをご利用くださる方には特に必要のない情報になります。

遠い昔、まだJIS X 0213フォントが十分に普及していなかった21世紀初頭に私が遂行していたKandata補完計画の、己の不明を根本的な原因とする挫折を通じて、この世界には公有日本語書体と呼べる自由な明朝体アウトラインフォントが存在しないことが明らかになりました。

日本においてはタイプフェイスの法的保護の位置づけが十分に定まっていないという問題も存在するのですが、それはさておき。

Oradano明朝フォントは、Kandata補完計画の挫折を踏まえ、どのような手段を用いればこの世界に公有日本語書体と呼べる自由な明朝体アウトラインフォントを在らしめることができるかという考察から出発しています。

  • M〓明朝のコピー・変造品だった旧Kandataフォントの更生=補完計画のため2001年の段階で私が「仮想Funit64」等の方針を立ててフルスクラッチで敢てダサく作ったアルファベットや記号類は厳密にはコピーレフトの結果としての公有書体を用いた自由フォントと考える。
  • 同様に旧Kandataフォント更生=補完計画のため、既存フォント製品と競合しないよう気遣って東京築地活版製造所の「前期五号」から「後期五号」の過渡期の状態を素材とした仮名フォントは公知の公有書体を用いた自由フォントと考える。

――という最も初期の「Oradano明朝フォント」を構成する2点はよいとして、問題は膨大な漢字をどうするかでした。

ある一つのテイストで統一的に整えらえた文字群(すなわち活字書体)として500から1000ほどの種文字を用意できれば、「文字の骨格、文字間のデザイン統一に関わる仕様、文字を構成する要素のデザイン・組み合わせ方・バランス等」を活用することでフォント製品に必要な文字群全体へと展開できることが経験的に知られています。

私が単独でOradano明朝フォントの作成を(十分なところまで)進められるとは限らないので、「フリーフォント」を僭称するコピー品が溢れかえっていた性悪説の世界では、同じ築地活版製造所でも五号系は危なくて使えません(五号系統に淵源する既製品のコピー・変造品等を混入される恐れがあります)。

2016年現在でスタートするプロジェクトであれば、しろもじ/mashabow(@mashabow)さんが公開してくださっている東京築地活版製造所『二号明朝活字書体見本 全』を活用させていただこうじゃないかといった方法もあり得るでしょうが、2003年の段階では公有書体と判断できかつ公衆アクセス可能な活字総数見本帳など、望みえない選択でした。

悪意が混入する危険を減らせ、また公有書体と判断できかつ公衆アクセス可能な資料として辿りついたのが、十年半ぶりのアップデート「第一弾」までのOradano明朝フォントが漢字グリフの典拠として活用していた東京築地活版製造所の印刷物で国立国会図書館近代デジタルライブラリー国会図書館デジタルコレクション、以下NDLデジコレ)にて閲覧できる、深井鑑一郎『標注 漢文入門』及び漢字統一協会『同文新字典』の築地三号活字です。

Oradano明朝フォント2005年11月のアップデートで教育漢字相当の文字種をカバーしたように、「種文字」として十分に活用できるであろう状態まで育てるには、この2点の資料で十分でした。けれども十年半ぶりのアップデート「第一弾」が示した通り、1981年の常用漢字をカバーするまでには至らないことに、私は2005年の段階で気づいていました。

詳細は省きますが、近代日本語活字史の野良研究者として十年過ごした結果今回追加で採用に至ったのが、Oradano明朝フォント十年半ぶりのアップデート「第二弾」で活用することとなった、「東京築地活版製造所以外の印刷所が印刷した築地三号活字」資料群になります(「第二弾」アップデートには、当初の2資料にも活躍してもらっています)。

どの文字が東京築地活版製造所が印刷した資料に基づく漢字で、どの文字が他の資料に依拠する漢字であるかはOradano明朝フォントの添付資料に全て記載してあります。

現在配布されているOradano明朝フォントがそれ自体として「和レトロフォント」や「活版テクスチャ素材フォント」として使用できるのは、このような歴史的経緯を背負っていることに由来します。

公有書体の「文字の骨組み」を活用して新しいフォントを生み育てるための礎となること、これがOradano明朝フォントの本来の存在理由でした。奇妙な配分で「新字」データが収録されているのは、可能な限り新字体旧字体も公有書体として活用できるものは活用したい、そのような願いによるものです。

Oradano明朝フォント十年半ぶりのアップデートは、せっかく「Oradano」すなわち「己達の」という名のフォントなのだから、「新しいフォントを生み育てるための礎となること」を必ずしも第一義と考えず、今現在「己達」が楽しめる「和レトロフォント」や「活版テクスチャ素材フォント」として便利な存在であろうとしても良いではないかというOradano明朝フォント再生の儀式となりました。

ともあれ、Oradano明朝フォントは無償で提供される自由なフォント(フリーフォント)であることに変わりはありません。

Oradano明朝フォントを、新しいフォントを生み育てるための基礎資料として自由に使おうと志す方は、貴方に差し出されたOradano明朝フォントという種子が、地獄で生まれた種から咲いた花の実であることを充分に理解し、あくまで東京築地活版製造所が印刷した資料に依拠する漢字グリフのみに限るか、全ての漢字グリフを活用するか、仮名その他の非漢字も含めて使うのか否か等々、どうか自分が後悔しないような方法で判断なさってください。

debianに入ってたから大丈夫だろう」というような安易な判断をなさらず、あなた自身が我がこととしてよく吟味してください。

Oradano明朝フォントの漢字グリフ依拠資料は公衆アクセス可能なものに限ることとし、全てURIを明示してあります。今後私がもし新たなアップデートを手掛けることがあったとするならばこの方針は堅持したいと思っていますし、「Oradano明朝補完計画」を手掛ける有志が現れるならば、同じようにして公有書体であることを担保しようとする態度こそを受け継いでくださるよう願います。

≫Oradano明朝フォントの配布サイト: http://www.asahi-net.or.jp/~sd5a-ucd/freefonts/Oradano-Mincho/

Oradano明朝フォントの投げ銭受付処:https://note.mu/uakira2/n/n0400c3d249ac


間違って最後まで読んでしまった、無料(フリー)和レトロフォント「Oradano明朝フォント」ユーザの皆さま、自由フォント云々の重苦しい話は見なかったことにして忘れてください。

皆さまがOradano明朝フォントを気軽に楽しんでくださっている様子を知るのが、私の大きな喜びです。

諸君、私は用例ツイートが大好きだ!