日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

製文堂がウェブスター式発音表記の日本版母型を用意した話

時事新報のコピーを眺め返していて、今までよく見ていなかった広告の面白いポイントに気がついた。
明治17年4月17日付、「字書出版社仮本局」名義で出された、(ウェブスターの)「和訳英字典大全第一巻延期」広告だ。

よく見ると、中程に、こう書いてある。

本社前約の諸君に対し謝罪すべきことあり元来本社の字書は殆ど空前絶後の大事業にして加るに本邦未曾有の発音八十七字の鋳〓型を新造し之を鋳造するが故に本年二月下旬に出版すべき第一巻意外に遅延したり今有名なる製字家製文堂の勉強を以て鋳造始て成り日々新字を鋳造し全社〓て漸く活版に着手せり

というわけで、例えば明治19年の紙幣局活版部『活字紋様見本』などを見ても普通には日本に入ってきていないウェブスター式の発音表記用アルファベットを日本で再現するため、秀英舎製文堂が(おそらくはオリジナル活字を作ったフィラデルフィアのTypefounderから活字を輸入して)母型を製造し、字書出版社に提供したもののようだ(字書の印刷者は字書出版社)。
このあたり、『株式会社秀英舎沿革史』などにも出てこない話だし、牧『京橋の印刷史』にも出てこない話なので、明治期新聞記事の全文検索といったことが可能になった頃に「製文堂」の検索をしてみない限り、たまたま見つけた自分が書き留めておかないと、埋もれたままの話になるだろう。
そう思って、とりあえずメモを残しておく。