日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

詩歌句の電書化考

亜米利加詩人のBilly Collinsが、電書化された自分の詩集を最近になって初めて眺め、リフローによって詩が台無しになるってんで憤慨してゐるのだといふ。

この記事を見て、二つのことに驚いた。
一つ目は、この有名詩人と云う男性は、印刷本といふ複製技術によって自作の配布をこれまで何冊も続けて来ながら、新しい複製配布技術であるウェブ標準を含む電子テキストの技術について全く無関心だったんだらうかといふ驚き。
二つ目は、氏の詩の電書化を担当した編集者なり出版社なりが、ePubなどリフロー系フォーマットとPDFなどズーム+スクロール系フォーマットの二通り、あるひは詩を文字によるタブローと見なして画像扱ひするといふ手段も含めて三通りの電書化があり得るって選択肢を示さなかったのかといふ驚き。
……
ちなみに、HTML + CSS2での自動改行無用の指定はかうならう。

<div lang="en" style="white-space: nowrap;">
Our God, our help in ages past,<br>
Our hope for years to come,<br>
Our shelter from the stormy blast,<br>
And our eternal home.
</div>


Our God, our help in ages past,

Our hope for years to come,

Our shelter from the stormy blast,

And our eternal home.

上記は日本語版Wikipediaで「スタンザ」の項に掲げられてゐるIssak Wattzの『Our God, Our Help in Ages Past』の最初の連なんだども、この例について、フォントサイズ拡大や狭小画面表示での自動改行を受け入れるが元が四行連であることは示したいといふ場合、かういふ手などがありさうだ。

<div lang="en" style="margin-left: 2em; text-indent: -2em;">
Our God, our help in ages past,<br>
Our hope for years to come,<br>
Our shelter from the stormy blast,<br>
And our eternal home.
</div>


Our God, our help in ages past,

Our hope for years to come,

Our shelter from the stormy blast,

And our eternal home.

……
今でもウェブ標準で対処できるハズの話をグダグダやってるヤンキー電書クオリティーって……。といふ話は捨て置き。問題は日本語の短歌や俳句ぢゃないかと思ってゐる己。
自分自身では歌も作らないし句もひねらないので実感的には解らないんだども、複数の歌や句を一つの頁に並べる際、両端を揃えるんぢゃないかと思ふ。
ウェブや電書が既に縦書きを受け付けてゐるものとして話を進めると、これはCSSのtext-align: justifyで指定できることだらう。
さて、では、リフローへの対処をどう考へるか。
「古池や蛙飛び込む水の音」といふ十一文字の句があって、「一行十文字以下」で表示させなきゃいけない場合、門外漢の己が想像するに、改行箇所は「古池や/蛙飛び込む水の音」になるだらう。しかも、「古池や」がalign-start(上寄せ)に、「蛙飛び込む水の音」がalign-end(下寄せ)になると嬉しいんぢゃなからうか。
ウェブ標準ではなく特定ブラウザの拡張HTMLには、“基本的には改行を禁じるがやむを得ない場合はココで改行せぇ”といふマーク付けがある。

<nobr>古池や<wbr>蛙飛び込む水の音</nobr>

かうしたマーク付けテキストに対して、“改行しない時は両端揃えだが改行する際は前半を上寄せ・後半を下寄せ”といふスタイル指定が可能なのかどうかは判らない。
更にこの古池の例で、「一行七文字以下」といった条件になる場合、改行箇所は「古池や/蛙飛び込む/水の音」になるだらう。上記の拡張HTMLには、「wbr要素の重みづけ」といった概念は無かったと記憶するんだども、「nobr要素内で改行されてもよい順番」を1・2・3……と示すことにして、己なら古池の例を次のようにマーク付けしておきたい。

<nobr>古池や<wbr br="1">蛙飛び込む<wbr br="2">水の音</nobr>

この句が三行で表示される場合、二行目をcenterにするのがよいかalign-endにするのがよいかは、己には全く判らない。ひょっとすると三行ともalign-topでよいのかもしれない。
……
さて、CSS3 textのドラフトがword-breakプロパティといふ記述をしてゐて、これは拡張HTMLにおけるwbr要素の標準化の作業なんだらうと思ふんだども、上記「改行されてもよい順番指定」の観点から、歌人俳人にとっては(そしてたぶん詩人にとっても)十分な働きを提示できてゐない気がする己だ。
もっとも、己は詩人でも歌人でも俳人でもない門外漢であるからこそ、そんな気がしてしまふのであって、詩人や歌人俳人にとっては十分なのかもしれない。
……
詩も歌も句も普段ほとんど目にしない読者ではあるんだども、先日も記した通り、アプリ化された詩など電書ならではの表現の方が面白いだらうといふ予想は捨ててゐない己だ。