日本語練習虫

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高見順「青春放浪」が示す渋川驍の作家同盟時代

高見順や渋川驍らが学生時代からあれこれやってゐた同人誌のうち、あるものについて、「同人はみなプロレタリア作家同盟に屬してゐた」と高見が書いてゐるのを見かけた。
昭和三十六年十二月十五日から二十日にかけて読売新聞に連載された「青春放浪」(『高見順全集』第十七巻所収)の連載第四回の部分に、高見はかう書いてゐる。

同じ英文科の學生だつた新田潤などとやつてゐた「文藝交錯」の同人のなかにもだんだん「左傾」する者が出てきた。詩人の壺井繁治氏がアナからボルになり、三好十郎氏らと左翼藝術同盟といふのを結成するに當たつて、「改造」當選作家の明石鐵也氏を通して私たちのところへ勸誘が來た。明石氏は佛文の學生だつたころの知りあひである。私は新田潤と二人で加盟した。その創刊號が出たとき、三・一五の大検擧があつた。昭和三年である。

そして、続く連載第五回の部分に、かうあった。

「大學左派」の後進として私たちは「十月」といふ雜誌をはじめた。眞の同志的結合を目ざしたので同人はすくなくなつた。雜誌も薄つぺらなものだつた。それだけにいよいよ急進的な傾向を帶びた。偏向と言つたはうがいいやうだ。

「十月」の同人はみなプロレタリア作家同盟に屬してゐたが、同盟のプロレタリア文学論などは生ぬるいとした。學生の陷りやすいウルトラ的偏向なのだつた。

先日見かけた『日本プロレタリア文学集』19巻の、佐藤静夫による渋川驍の略歴(20100202)をここで再確認しておくと、渋川驍は「『大学左派』を改題した同人誌『十月』を、高見順長沖一、木村利美らと創刊し、また同時に左翼的文芸同人誌『時代文化』を高見順、丸山義二、島上千一、柴田賢一らと創刊(一九二九年)した。」と書かれてゐた。
佐藤静夫は、「要するに、これらによれば、いずれにしろ渋川驍(町田純一)も一九三〇年〜三一年には、プロレタリア作家同盟に加盟していたと考えてよいであろう。」と書いてゐたんだども、高見順も『「十月」の同人はみなプロレタリア作家同盟に屬してゐた』と書いてゐて、まあ、実際さうだったんだらう。