日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

あをぞラボ徳永直『グウテンベルグその他』

本日もseesaaの「あをぞラボ2.0號館366号室」へ、新しい記事を載せた。
徳永直『グウテンベルグその他』(『文学者』3巻2号)
これもまた、木村一信『「光をかかぐる人々」序説――創作経緯とモチーフを中心に――』において、徳永が『光をかかぐる人々』を執筆するきっかけになったと記された記事である。
昭和十五年五月、「日本文化史展」を見て「印刷産業についてはこれは小説が書けるかも知れぬと思つた」ところの徳永が、大橋図書館で『現代活版術』を読み、さらに創作上の意欲を固めるところである。

勿論發明にもいろいろあって「洗濯物ばさみ[♯「ばさみ」に傍点]」とか「魔法コンロ」とかいったものもあるしするが、そしてこれらの發明品のうちに流れてゐる發明精神といったものと、もっと根本的な時代の文化精神が必然性をもつて挑みかかつてゆく場合の苦難に滿ちた發明精神といつたものとは、根本的な意味で純文學と通俗小説との區別があると思ふが、ともあれグウテンベルグの場合も、それを移植した本木昌造翁の場合にも「現代活版術」なぞで書かれたよりはもつと沸つた精神で書かれねばならぬと思つた。

ちなみに、徳永は『グウテンベルグその他』さ、かう記してゐる――

先日九段下の大橋圖書館に行つて、日本の印刷術の歴史について著らはされた本を探がしたが、それの尠いのに駭いた。圖書館員にもいろいろ訊ねて探して見たが、全部でカードが五枚しかなく、それも殆んど大正年代の著作で、實際借りだせたのは一冊しかなかった。

一冊の本は「現代活版術」といふので大島といふ人が著したもの、そして五枚のカードのうちこの人が三枚書いてゐるのでここだけで云へば、日本の印刷術についてこの著書は三人しかないわけである。

――んだども、もちろんこれは「島屋政一」が書いて「大阪出版社」から出された『現代活版術』のことである。
現代の我々は、大正から昭和初年にかけて印刷文化について多数の大著を記した島屋政一が、「もつと沸つた精神で書」いた『本木昌造伝』を遺してゐることを、知っているわけなんだども、当時の徳永にそれを知る由はない。
http://www.ops.dti.ne.jp/~robundo/Bmotogi.html