日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

小山正孝『愛しあふ男女』と小山潭水の生没年

『アイデア』367号「日本オルタナ文学誌」(asin:B00N9BEEVI)の第2章「書物の王としての詩集」に書肆ユリイカ伊達得夫のコーナーがあり、田中栞書肆ユリイカの本』(asin:9784791764655)で紹介されていた貴重書など選りすぐりの逸品が12頁にわたってフルカラーで紹介されている。
造本の面からも極めて特異な位置を占めるのが、367号28-29頁に見開きで掲載された安東次男詩・駒井哲郎画『からんどりえ』で、「詩を活版印刷した局紙に銅版画を刷り重ね、未綴じの折丁をスリップケースに収めた、日本初の本格的フランス風詩画集」だ。『書肆ユリイカの本』89-90頁によると、国会図書館所蔵本は「版画製の覆いの内側に製本テープ様の物体を支持体として取り付け、そこに糸かがりの手法で本文紙をすべて綴じつけて製本してしまい、おそろしいことに駒井の銅版画ののど中央に白い綴じ糸が突き刺さっている」のだという。
同時期に試みられた小山正孝詩・駒井哲郎画『愛しあふ男女』は、『書肆ユリイカの本』90頁には「国会図書館本としては珍しく未綴じのまま保存されていて、閲覧は図書課別室で行う。大判の覆い帙に収められた豪華な詩画集で、駒井のエッチングが一葉添えられている。本書の本文要旨は『からんどりえ』よりもずっと薄く、保存のことを考えると今後製本されるおそれがありそうだが、これがぜひともこのままの状態で保存してもらいたいものだ」と記されていたが、デジタル化資料を見た感じだと、どうやら残念な製本がほどこされてしまったようだ。画像からは、天以外が裁断され、小口と仮定した側が綴じられているように見える。デジタル化処理の都合からか、現時点では原本を見ることができない。
ちなみにデジタル化された『愛しあふ男女』の「100%」表示は原寸より若干大きいようで、同時に撮影されたスケールから判断すると97%程度に縮小するとほぼ原寸になるようだ。
何しろ限定本であるから、デジタル化を通じた公共図書館間送信資料となったことで上っ面という意味での「コンテンツ」へのアクセス性は格段に増したわけだが、印刷物としての形態が棄損されてしまったのだとすると、非常に残念な話である。
『からんどりえ』の本文活字は10ポ半と12ポのモトヤおよび岩田などだったが、『愛しあふ男女』の本文は日活の明朝体で、上記原寸換算が正しければ12ポイント活字になるようだ。タイトルから察せられる通り、旧字旧かなである。

国会図書館の書誌では大きさが36cmとなっているが、これは原装時のものだろうか。原装だとすると、『からんどりえ』をA4判変形と判定された川本要さんならB4判変形と仰るところか(『書肆ユリイカの本』233頁には「B4判未綴じの大型本」とある)。



さて、そんな〈「現代詩に独自の世界を作り上げた愛の詩人」小山正孝を紹介するホームページ〉『感泣亭』のブログ記事「杉浦明平との往復書簡」に、次の記載があった。

明平さんと正孝の往復書簡は、全部で100通ほどもある。
若杉さんが、すべての書簡・葉書をワープロにおこされた。見せて頂いた。大変な分量だ。
中に、正孝の結婚式の案内状もあった。
また、小山正一(潭水−正孝の父)の葬儀についての会葬文も。

ウィキペディア小山正孝のページで「人物」の項を見ると、確かにその冒頭に「盆景家小山潭水の次男として、東京青山に生まれる。」とある。
「盆景家」とは何か、盆景家である「小山潭水」とは何者か。ウィキペディアに小山潭水の項目は無いが、試しに国会図書館サーチで探してみると、『盆景の作り方』という本を書いていることが判った。
国会図書館デジタルコレクションの『盆景の作り方』は、書誌を見ると文化庁長官裁定でのインターネット公開になっている。国会図書館典拠データベースでは小山潭水の生没年が空欄(未詳)となっていたことから裁定扱いなのだろうと推測された。
『感泣亭』を運営されている小山正見氏(正孝のご子息)に潭水の生没年をお尋ねしたところ、戸籍を取り寄せてまでご確認くださった。
早速国会図書館電子図書館課で著作権処理を担当されている方に潭水生没年をお知らせし、数日後には典拠データベースの情報も無事更新された
潭水に関する問い合わせにご協力いただいた小山正見氏には、ここに一連の流れを書き記し、改めて感謝申し上げる次第。



さて、一方、件の著作権処理係の方からは、序文を記した鵜月左青の生没年が未詳のため『盆景の作り方』は「裁定」公開のままになるとお知らせいただいている。
鵜月左青について情報をお持ちの方がいらしたら、ぜひともご教示くださるよう、お願い申しあげたい。