日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

「近代日本語活字・書体史研究上の話題」(『ユリイカ』2020年2月号)注釈リンク集

1月29日付で青土社から刊行(http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3392)の『ユリイカ』2020年2月号(特集「書体の世界」)に「近代日本語活字・書体史研究上の話題」という小文を書きました。

自分が誠文堂新光社『アイデア』誌上で最初に書いた原稿が「来るべきマンガタイポグラフィ研究のために」(2009年、336号)だったようにマンガの文字については人並みの関心を持っていますが、当初頂戴した「タイポグラフィ研究とは何か」というテーマは余りにも荷が重く、「近代日本語活字(活字書体)」の歴史を研究するとはどういうことかという内容で、ざっくりレポートしたものです*1

「活字・書体史研究の方法について」「近頃気になっている話題数点」という2章で綴った「400字詰め原稿用紙20枚程度」の本文に対して全部で70個ある注釈のうち、印刷されたテキストのままでは辿り辛いもの(ウェブ資源のURI)が幾つも含まれているので、ハイパーリンクでの提示が適した注釈を以下に抜粋・再掲して、この記事からリンクを辿れるようにしておきます*2。副読本としてご活用ください。

誌上では注釈が全て末注になっていますが、この記事では節ごとに再構成しました。内容見本の一種としてご利用ください。

なお、「活字・書体史研究の方法について」の構成は、とある本をそっくり借用しています。その「とある本」が何であるかを知りたい方は、ぜひ『ユリイカ』2月号を手に取ってご覧ください(「はじめに」で答えが明示してあります)。


一、活字・書体史研究の方法について

一・一、近代日本語活字・書体の歴史に触れた資料、及び既往の論及

一・二、活字見本帖と活版印刷

一・三、Fact source=客観的事実のみを伝える資料

一・四、当時の新聞・雑誌の記事

一・五、その他の周辺資料

二、近頃気になっている話題数点

二・一、候文に用いられる「準仮名記号」や女性の手紙文に現れる「消息文字」のこと

二・二、平野活版製造所『活字摘要録 全』(一八七七)の現存文字数など

二・三、大日本印刷所蔵、大正一五年刊「仮称『明朝六号活字見本帳』」の名称

二・四、『和獨對譯字林』の活字書体

二・五、号数活字サイズの謎と英米系分析書誌学


1月30日追記:『ユリイカ』2020年2月号76頁の図1〈桑山書体デザイン室KD文庫所蔵、東京築地活版製造所『大正十四年三月改正 五號明朝活字總數見本 全』31頁より「平假名及び附屬物」〉は、縮小であることの注釈がありませんが、約83%に縮小されています。同様に77頁の図2〈筆者蔵、東京築地活版製造所『昭和十一年五月 改正五號活字總數見本 全』35頁より「平假名」〉も、約85%に縮小されています。原寸表示をすることも、縮小率の記載をすることも、縮小率を揃えることも、出来ませんでした。申し訳ありません。


*1:近代日本語活字・書体というものは、技術・産業史と美術領域の中間にあり、また日本語表記を背負うものであり、タイポグラフィの素材でもあるものだ――と思っているのですが、本稿を書き上げてみて、全体像を描き出すには自分の力が大いに不足しているという事実を改めて突きつけられた思いです。

*2:例えば「注13」のようにデッドリンクであることを知っていながら敢てそのまま記載しているものも含まれている点、ご寛容ください。

KmViewでのインターネット公開資料群はどうなるのだろう

以前から予告されていた通り、2020年は1月14日付のWindows 7サポート終了で始まって、12月末でのFlash終了で終わる年となっている。

後者については、FlashアニメやFlashゲームなどと結び付けて「平成のインターネット文化」を懐かしむ話題ばかり目にして、電子化された貴重書のインターネット公開が現在も「KmView」というFlashベースのビューワで実施されていることに着目した「世の中の大きな問題」として扱う話題を見た記憶がない。

例えば、山形大学附属博物館「三島県令道路改修記念画帖」新潟青陵大学図書館「貴重書コレクション」の『Life and Death of Athena, an Owlet from the Parthenon』のように、実質的に一つの資料のみを扱うようなものであれば、仮にKmView経由での閲覧を廃止してPDF等での閲覧に切り替えるということも、そう大げさな話にはならないだろう。

ところが、東京地学協会の「ウェブ図書室」国立天文台暦計算室「貴重資料展示室」のように、単独の画像ファイルやPDF形式に交じって、それなりの数量をKmView経由で公開しているようなケースはどうだろう。

あるいは、学習院大学図書館「学習院コレクション」や、明治大学図書館「貴重書画像データベース」お茶の水女子大学附属図書館所蔵「和算資料コレクション」、そして東京学芸大学附属図書館「特別コレクション」のように、大規模資料群がKmViewを前提に公開されているケース。学芸大の望月文庫が見られなくなると困る人も多いんじゃないだろうか。

この方面に国内では飛び抜けて大きな予算と人手を割ける(と想像される)東京大学情報システム部情報基盤課学術情報チームによる「電子版貴重書」ですら、過去2年間を費やしてKmViewからIIIFでの公開に切り替え中(「2018/1/23リニューアル」や「2019/11/21リニューアル」など)という状態になっているようだ。

HTML5ベースでのKmViewが提供される――というようなソリューションが、年末までに実現するのだろうか。


明治初期の平仮名活字資料群である可能性があるのか無いのかということを知るための予備調査として、一時期、広島大学図書館「教科書コレクション」(おそらく全てPDF)や、筑波大学附属図書館貴重書コレクションの「乙竹文庫」(これも概ねPDFだったか)と並んで、学芸大の望月文庫を夢中で眺めていたように記憶している。もう10年以上も前の話。かつて先進的なビューワだったKmViewの採用が、ここに来て悪いレガシーになってしまっていることが切ない……。

2020年の抱負

文字通りの意味で、日々、歩き続けること。

SH-M03の発熱があまりにひどく、HTC-J butterflyの頃にやっていたIngressから4年ほど離れていたのだけれど、先月SH-M12に乗り換えたところバッテリー容量的にもROM/RAM容量的にもDQWの使用に耐えられるようになった。

ちなみに、仙台市天文台は「月までの距離」を「約38万km」と仮定した上で時速4kmで24時間365日休まず歩き続けて約11年を要する道のりだとしているのだけれど、比叡山千日回峰行が最初の3年間を1日30kmで年に100日間、4年目と5年目を1日30kmを年に200日としていることを考えると、このくらいのペースでないと体が保たないのだろう。「月に行くほど遠く長い道」を38万4400kmとして、仮に最初の3年間で9000km(30km×100日×3年)進み、以後、年間30km×200日ペースの近似値であるところの毎日平均16.5kmペースで進むものとすれば、スタートしてから65年3ヶ月ほどで「歩いて行けるさ」という距離感だ。

ラソン選手が月間1000km走っていることを考えると、そのレベルなら32年間で走りきってしまう道のりでもある。

東京 中央区立郷土天文館(タイムドーム明石)第20回特別展講演会

2019年10月19日から12月15日の日程で開催の、東京都中央区立郷土天文館(タイムドーム明石)第20回特別展「築地の魅力 再発見」関連講演会の第1回として、11月16日に「日本語活字ものがたり ~築地体を中心に~」というお話をさせていただきました。
https://www.city.chuo.lg.jp/event/culture/20tokubetuten.html

天一閣博物館✗上海美術学院

上海美術学院が企画している「美哉漢字」という国際シンポジウムが、9月17日に寧波の天一閣論壇(美哉漢字 偉哉文明)として開催され、第2分科会「數字時代的漢字字體設計(デジタル時代の漢字書体設計)」に参加してきました。
https://kknews.cc/culture/y3oezqk.html
「19世紀の日本語印刷文字――从手写到印刷字体」という大きな題で小さな話をさせていただきました。

「佐藤タイポグラフィ研究所」の小宮山先生

一昨年来、収集資料を(横浜市ふるさと歴史財団が管理する)横浜開港資料館を経て(同じく財団管理の)横浜市歴史博物館へ寄贈されていた小宮山博史先生から、8月7日付で佐藤タイポグラフィ研究所を無事閉所した旨の挨拶を先般頂戴していた。

Googleでいま眺められるストリートビュー画像は2019年5月に撮影されたものと記されているので、研究所の外観に関する最後の佇まいと言って良いだろう。

https://goo.gl/maps/foVnGWUHpNPJ2fcAA

残念ながら、ここ15年ほどの交流の中で、研究所にお邪魔する機会を得ることは出来なかった。

自分の記憶が確かならば、小宮山先生に初めてお目にかかったのは、2004年6月26日に印刷博物館で開催されたセミナー「築地体の百二十年」だった(セミナーを聴講したことについては、これまでブログ等に書いて来なかった)。

2002年の晩秋から近代デジタルライブラリーを漁りまわるようになり、後に「明治31年築地体後期五号仮名のはじまり」として公表することになるような基礎調査――近デジ総当り作戦――を積み重ねる中で、最初期和文アンチック活字・ゴシック活字に関する資料を集めようとしていた頃だ。

セミナーで小宮山先生が築地活版の「アンチック形文字」について少し触れていらしたので、セミナー終了後に「アンチック形文字」の初出と思われる資料(『印刷雑誌』掲載の広告)について質問させて頂いたところ、近日確認して郵便で知らせるという返事を頂戴し、連絡先をお渡しした。

驚いたことに、6月27日付の消印で、「明治24年11月28日 第一巻 第十号」というメモが付された東京築地活版製造所の『印刷雑誌』掲載広告の複写をお送りいただいた。

小宮山先生は、資料は活用されなきゃいけないという信念を持っていらしたので、その後の15年で数多くの貴重な資料に触れさせていただいた。また『在野研究ビギナーズ』でも簡単に触れた通り、オーガナイザーとしての小宮山先生には、講演をさせていただく機会や小さく濃密な勉強会に参加する機会などを作っていただいた。小宮山先生から「お願い一件」という表題のメールが届くこと――小宮山先生からの「お願い」であれば、原則としてお断りという選択肢は無い――は、恐ろしくもあり楽しみでもあった。

これから先、蒙った学恩に釣り合うほどの仕事を果たせるかどうか定かではないけれど、僅かでも「恩送り」が出来るよう努めたい。

ときどき休む研究生活

明石書店から9月1日付で刊行(https://www.akashi.co.jp/book/b472224.html)の荒木優太編『在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活』に、「点をつなごうとする話」という小文を寄稿しました。

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

ファンタジスタでは全くないし、スーパーな何かを持ち合わせているのでもない、ひとりの地味な在野研究者(フィールド・プレイヤー)が――決してヒーローではないけれど――泥臭く黙々と走っている姿を黙って差し出すのが自分の役割だろうと判断し、そういう文を書いてみました。

表題が「点をつなごうとする話」なのは、人生の色々な寄り道が、現在地から振り返ればゼロから「自分の1」を起こすのに必要な(ひょっとすると最短の)道のりだったという例のアレです。「点をつなぐはなし」じゃなく「点をつなごうとする話」なのは、まだ途中だと思っているからです。そのうち全然違うルートを掘り進めているかもしれません。


「勝手にはじめ」た当時のセルフ応援歌がTriceratopsGoing to the Moon」だったことを思い出しました。「あの娘の愛に触れたいと」の「あの娘」がメーティスかミネルヴァ、アテネだったら、「まだまだ足りないから」という思いを原動力に「月にいくほど遠く長い道も歩いていけるさ」と信じられる、そういう感じ。

息子がライダーを見るようになったのはディケイドが終わってWが始まる頃だったのですが、その頃に知った平成ライダーの主題歌のうち、「Round Zero - Blade Brave」、「Next Level」、「Climax Jump」には、何度も気分を上げてもらいました。

先人から受け取ったバトンを次のランナーに繋ぐのが「学問」とか「研究」とかいう人類の営みの中での各人の役割だとすると、特に自分の場合はかなりマイナーなジャンルに携わってしまったという自覚があるので、自分が気持ちを切らすことがイコールジャンルの死滅という責任の重さを勝手に感じており、今でも仮面ライダーに助けられています。

ほんとうは、「大学に属していない研究生活」を勝手にはじめるだけでなく、勝手にやめてもいいはずと思うのですが、当面は、ときどき休みながら続けていくつもりです。まだ足りないから。


以下追記。
9月5日に自分のパートを読み返してみた際に、誤記の見逃しに気がつきました。100頁冒頭、「三 Oradamoフォントをつくる」は、「三 Oradanoフォントをつくる」が正しいです。謹んで、訂正申し上げます。