日本語練習虫

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糸綴じ上製本/塚本靑史『わが父塚本邦雄』

つい先日になってようやく、白水社から塚本靑史『わが父塚本邦雄』が出ていたことを知った。奥付によると、発行日は昨年のクリスマスだ。

わが父塚本邦雄

わが父塚本邦雄

白水社のサイトでは「体裁:四六判 上製 286頁」とだけ記されているが、何となく、このご時世に「かがり糸で綴じた」上製本であるというところが造本におけるコダワリなんじゃないかと思った。
――のだけれども、実は上製本をきちんと目にする機会が極めて少ないうえに製本について素人なので、無線綴じやアジロ綴じよりも手間がかかるという以上の情報を持ち合わせていない。
手間がかかるということはコストが嵩むということに直結しているはずだが、実際にどの程度原価に跳ね返ってくるのだろう。近年刊行される上製本のうち糸綴じの割合はどのくらいあるのだろう――といった内容の、『わが父塚本邦雄』が糸綴じであることが「特別な思いを込めた選択」なのかどうかを判断する材料の持ち合わせがない*1
ちなみに印刷は理想社で、『アイデア368号の拙稿「近代日本語活字書体小史」に記した通り、本文書体は、鈴木一誌『画面の誕生』の後書が無ければ単に「モトヤ」とだけ記したであろう「モトヤ明朝Pro W2RS」のようだ。
『アイデアオルタナ三部作を経た今、歴史考証*2の部分も含めた造本のリバースエンジニアリングという観点を抜きに、「本づくり」に懸けた想いの深さを知ることはできないと、つくづく思う(と同時に、この面での己の無力を、つくづく思い知る)。
『わが父塚本邦雄』巻末の著作リストのうち、せめて「※」印が付記された「特装本」だけでも、判型、製本、紙、活字のことなどを載せていてくれたら良かったのにと残念でならない*3

*1:『アイデア358号の拙稿「うたう活字書体」で枡野浩一『ますの。』8-9頁を図示したのは、本文書体の見本文として好適だっただけでなく「赤いかがり糸」が「巨大な本文活字」と並ぶ同書のコダワリという話を目にしていたから。

*2:出版時点で取り得た技術的な選択肢とコスト的な選択肢、そして一般的な様態がどのようであったか。

*3:『アイデア』368号44-53頁では「色違いスピン二本刺し」の書影を幾つも見ることが出来るが、当然造本上の特色の一つとして記録されるべきだろう。