日本語練習虫

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チェンバレン『文字のしるべ』の清朝活字

連続セミナー「タイポグラフィの世界4」羽良多平吉さんの回で話題になった、鈴木翁二『まばたきブック』の題字が《チェンバレンの本?》から採られたという件。

id:koikekaishoさんから『文字のしるべ』ではないかとお教えいただいていたので、初版影印を収録している岡墻裕剛編著『B.H.チェンバレン『文字のしるべ』影印・研究』(asin:9784585032199)と、オリジナル再版本を閲覧させていただいた。

明治32/1899年の初版本も明治38/1905年の再版本も、どちらも秀英舎第一工場が印刷者として奥付に記録されているが、確かに初版本の影印(上図右側)に見える通り、二号活字の仮名は明治15年の総数見本に現れる、築地活版の細仮名だった。
三号・四号は初版本の時点で既に秀英舎オリジナルに切り替わっている。これは『アイデア358号などで資料状況を示しておいた通り。
二号は再版本の時点でも築地の二号細仮名を使っているが、これは組み替える手間が膨大になるのを避けたためだろうか。
再版本で秀英初号になっている大見出しが、初版本では(おそらく)築地の初号に、見慣れない「の」を合わせているのが面白い。プレ秀英初号とでもいったものだろうか。



ざっと斜め読みしただけなので『B.H.チェンバレン『文字のしるべ』影印・研究』に言及が無かったと断言はしないが、そうと記載されていなかったように思うのが、再版本末尾近くにある「INDEX II」と題された項の楷書活字。
32頁にわたって「ALPHABETICAL INDEX OF CHINESE CHARACTERS AND THEIR JAPANESE EQUIVALENTS」すなわち日本で常用されている漢字を読みのアルファベット順に並べた一覧表が展開されている。
驚いたのが、その活字書体の大きさだ。「内田スケール」で即座に判断できる状態ではないので、補助線を引いてみた。

右側が(当時の)明朝系四号活字の大きさ(4.79mm角――これは『文字のしるべ』再版本に見られる秀英四号の大きさでもある――)を基準に行間2ポイントと仮定したもの。左が弘道軒清朝体五号活字の大きさ(4.61mm角)を基準に行間2.5ポイントと仮定したもの。
拡大図を一見すると、どちらの仮定も成り立つように見えるが……

ページ下端に近づくと、明朝四号行間2ポでは綻びはじめ、弘道軒清朝五号行間2.5ポ(もしくは行間明朝五号四分)と推定するのが妥当と思われる。

まだ収録字種を数え上げたわけではなく、また『文字のしるべ』のために特製した活字が含まれていないとは言い切れない。
だがしかし、小室樵山の楷書活字を弘道軒しか製品化していなかった時点の清朝体活字本から字種データベースを制作する際の有力な参考資料になるものと言えそうだ。