日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

モトヤ商店の岩田仮名/秀英仮名

昭和になったばかり(まだ「新体明朝」が出る以前)の頃に発行されたものと思われる森川龍文堂『四号明朝活字見本帳』という四号活字の総数見本を見ると、「普通型」と「中型」の2種類の平仮名が掲載されているのだけれど、「普通型」とされているのは築地(後期)四号で、「中型」は秀英四号だ*1

写植やデジタルフォントの見本帳から「築地体」を選ぶ、「秀英体」を選ぶといった感覚ではなく、「ちょっと細身の方(太めの方)」とか「小ぶりな方(大ぶりな方)」という意識だったのかと想像される。
他の印刷所の見本帳などでも類似のものを、よく見かける。



時代が下って、昭和30〜40年代の本を眺めていると、(少なくとも平仮名に関して)「イワタ系を基本にして○○と××を混ぜてる感じかな?」という印象を受けるものや、一部チューニングして自社用の基本書体を定めたんだろうなと感じられるものなどを見かけることがある。昭和30〜40年代の活字見本帖のうち、平仮名の全字種を掲載しているものにはなかなか出会えないでいるのだけれど、先般「オルタナ編集者」の郡淳一郎さんから頂戴したモトヤ商店『書体』(昭和32/1957年刊と推定)が、字種を限定した組見本の他に「平仮名全字種」リストを掲げていた。

この見本帳で「E型」とされているのがモトヤ商店オリジナルの書体で、「C型」が同時期同サイズの秀英体大日本印刷)、「B型」が岩田を基本にして「あ」など一部をモトヤ系にしたセットということになるようだ。
モトヤ「B型」のようなケースが各社にあったのだろうと思うのだけれど、残念ながら力不足で、当時の資料をしっかりと確認できる状況に至らない。
いま『アイデア』367号のためにチェックしまくっている本の活字で、「B型」に類するセット(モトヤとは限らない)については、「岩田型」としておこうかと思う*2

ちなみに、こちらは「新体明朝」四号活字。

*1:見比べると、普通型の字面が少し小さく、中型が少し大きい。中型より更に大ぶりなものとして築地系の「太平仮名」も掲載されている。

*2:敗北感と共に。力及ばず。