日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

#活デ図 「活字中毒者のデジタル図書館探訪」00草稿

今回お話しさせていただく「活字中毒者のデジタル図書館探訪」という演題は*1、先日ブログでも触れましたが、『真性活字中毒者読本』という2001年に柏書房から出た濃厚な本、この本に対するオマージュということになっています。

真性活字中毒者読本―版面考証/活字書体史遊覧

真性活字中毒者読本―版面考証/活字書体史遊覧

http://www.kashiwashobo.co.jp/cgi-bin2/bookisbn.cgi?cmd=d&isbn=4-7601-2146-3&back=../pages2/shinkan_menu.html&backlist=1
出版社の内容見本の文句に「本の版面を見れば、たちどころに使われた活字の系統と彫師を言い当て、その書体の味を飽きることなく語る真性の活字中毒者の饗宴。」とありますように、活字で綴られたコンテンツもさることながら活字それ自体、「活字のひと粒ひと粒の姿かたちに魅せられあるいは憑れた」という意味での「活字中毒」になってしまうと、こんなディープな世界が待っているのかと、驚き呆れつつも、実に面白く読ませて頂きましたし、たくさんの図版を眺めさせていただきました。
第一章、府川充男師の「日本語組版の歴史」という講演録、ここに山田美妙『嫁入り支度に教師三昧』の話題があります。明治年間に活版本が社会に浸透していく過程で、欧文組版から句読法が導入されていく、その一例として、こんな風に紹介されていました。

『嫁入り仕度に教師三昧』はいわば整版本の極致と言いますか、整版本を近代化した成れの果てではないでしょうか。一応かなは連綿しているんですけれども、横の並びを見ますときれいに字並びが揃っています。珍しいことに段落行頭を一字下げている。著者の美妙は当然、英語ができますから、こういう形で欧米の行頭インデントを和文に取り入れていったわけです。美妙はそれをたいてい活字組版の世界でやっていた人ですが、製版でやって下さいという話でも持ちこまれたのでしょう、製版でここまでやってしまった。しかも句読点を遣い分けているという極めて珍しいスタイルであります。傍線は活版でも技術的に極めて困難だというほどのことはありませんが、大正以降ということになると、あまり見なくなります。

そこに掲げられている図は、次の見開きの、左ページでした。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/886062/10
右ページには「段落一字下げ」はありますけれども、左ページには見えません。ページを繰っていきますと、32コマだとか、42コマだとかは、行頭インデントも見える上に句読法やら何やらの色んな事例がてんこもりになっています。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/886062/32
実はこういう珍しい図書資料について、書誌情報がある程度きちんと紹介されていれば近代デジタルライブラリーによって自分の目で見て確かめることができるんだと、その有難味に私が気づいた、ほとんど最初の出来事と言っていいものです。
そんな風にして、近代デジタルライブラリーって色んな資料を自分の視点で確かめられて、すごく面白いよなぁ、というブログ記事を書き始めたところ、当の府川師からコメントを頂戴いたしまして、恐縮したり大喜びだったりしたのが十年ほど前のことになりますが、これがそのまま深みに嵌って調べ続けることになってしまったきっかけ、あそこで「活字中毒」に罹っちゃったんだなと、懐かしく思い出されます。
そんな具合にして、築地体後期五号仮名と呼ばれる仮名書体の出現時期の明確化など、幾つか調べて解ったことが『活字印刷の文化史』という論文集に取り上げていただくようになりました。

活字印刷の文化史

活字印刷の文化史

http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=3218
その『活字印刷の文化史』梓行記念セミナー、残念ながら私は参加できなかったんですが、ポスター画像のバリエーションが大量に作られた中のひとつに、『嫁入り支度に教師三昧』バージョンがあったと、私、つい最近になってようやく気がつきました。ポスター群が発表された「築地電子活版」のサイトはもう存在しないんですが、タンブラーに拾われていたのを、検索エンジンが見つけ出してきてくれたものです。
見ると、十年前の私が「このあたりが相応しいんじゃないか?」と生意気なことを書いていた箇所ではないんですが、今の私が見ると≪「美妙斎、整版で活版ごっこをやってるよ」っていう具合に当時の読者がウケたんだあろうなぁ≫と思われるようなところが示してあるんですね。
http://whym.tumblr.com/post/218560275
もし府川師が私のブログのコメントの件を覚えておいでだったら、ひとこと、ただもう脱帽ですと、さらにまた、中毒をうつしていただいたことに対して丁重にお礼を申し上げたい次第です。