日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

新著百種一号二号の楷書活字サイズ

先日の記事に記した近代デジタルライブラリー観察資料のうち、宮城県立図書館が現物をもっているものを、眺めてきた。
まず、明治二十八年に春陽堂から出た『惟任日向守』。これは、実寸4.77mmの号数制四号活字を四分アキで組んだものと思われた。


その国文社が刷った、明治二十二年に吉岡書籍店から出た「新著百種」シリーズの第一号『二人比丘尼色懺悔』を計ると、奇妙な結果が出た。仮名は明らかに、築地体前期五号仮名ベースであるところの国文社の五号仮名(を楷書活字のサイズに鋳込んだもの)と思われるのだが、漢字活字を基準に計っていくと、どうも実寸4.63mmの活字を四分アキで組んであるように思われる。


また、田口高朗が刷った第二号『掘出し物』をも計ってみると、やはり本文は実寸4.63mm活字を四分アキで、また前号の評の頁はベタで組んだもののように見える。



この実寸4.63mmというのは、片塩二朗「弘道軒清朝活字の製造法とその盛衰」(タイポグラフィ学会誌第四号所収)が「K清朝」五号活字の実測値とする寸法と完全に合致する。仮名書体については二系統があるようにも思われるが、ともあれ、寸法は「K清朝」五号で作ってある。
国文社の楷書活字は号数制だと耳にしたが、弘道軒の清朝五号は号数制の四号より一回り小さいから、後に号数制四号に鋳込み直したというようなことだろうか。
先日の記事では、末尾に《矢作勝美『明朝活字』は『二人比丘尼色懺悔』を深く追求することなく弘道軒清朝体が使われた書籍の一つに数えているが、我々は明治の楷書活字について、もう少しだけ慎重に調査を進めた方が良さそうだ。》と記したが、更に一段と慎重を期して取り組む必要があると認識を新たにした己だ。