日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

1994年の極太明朝

先日の記事「小谷充『市川崑のタイポグラフィ』と「エヴァ明朝」」へのコメントでogwataさんからご教示いただいた『EYECOM』誌の連載「仰天新聞」なんだども、ogwataさんのご厚意により拝読することが出来た。連載記事の筆者唐沢よしこ氏と編集者小形克宏氏が、ガイナックスのネットワーク部神村氏と広報部佐藤氏にインタビューを試みたもの。曰く:

「『エヴァ』は企画書もDTPで作ったんですよ」
庵野が自分でコンピューターいじったんですけど、どうもその時に気に入ったフォントが無かったみたいなのです。だから、制作が始まって最初にしたことはフォント探し(笑)」
「で、見つけたのが“俺明朝”です」
マティスEBというポストスクリプト・フォントです」
「コレはどうしてもぶっとい明朝が欲しいという庵野のお気に入りになりました。それで“俺明朝”、と(笑)。劇場版のポスターなどにも使われました」

企画書で使われたフォントについては、企画書全頁の縮刷をカラー掲載してゐる『NEWTYPE 100% COLLECTION 29 新世紀エヴァンゲリオン』(asin:4048527002)で確認できる。ニイスのJTCウインM9である。
プリプレス技術協同組合『プリプレスのためのDTPフォント見本帳 FONT GUIDE BOOK No.1』(asin:489369314x)によると、エヴァの制作がスタートした1994年当時、庵野監督が選択肢とすることができたはずの特太明朝体フォントは、以下のラインアップであったものと思はれる(同書掲載順)。

可能な選択肢が上記であることを踏まえて、「どうしてもぶっとい明朝が欲し」かった庵野監督が、では具体的にどんな基準で結果的にマティスEBを選んだのか。――我々の推理は、そのように進む筈だ。
……
ところで、ざっと読み返した限りでは、太田出版の『庵野秀明スキゾ・エヴァンゲリオン』(asin:4872333152)『庵野秀明パラノ・エヴァンゲリオン』(asin:4872333160)さタイトル文字に関する話題は記されてゐない模様なんだども、これら“800円本”の元になった『QUICK JAPAN』誌の9号・10号・12号を眺めてみると、「欠席裁判」の一部を掲載してゐる12号(asin:4872333195)に、伊藤剛+編集部編の「『エヴァンゲリオン』小辞典」といふ企画があって、「極太明朝」といふのが立項されてゐた。

極太明朝=『エヴァ』のタイトル画面等で採用される極太明朝の文字による構成。市川崑監督作品の映画タイトルからのサンプリング。行の途中で九〇度曲げたこのタイポグラフィは、文句無くカッコイイ。

ふと気になったのは、『Macクリエイターのためのフォントデザインブック'98』掲載書体の中で、とても太い書体であることを示す命名に「極太」の語を使ってゐるのがピー・アンド・アイの「極太ゴシック体」の他、ダイナラブの極太明朝体・超極太明朝体、極太ゴシック体・超極太ゴシック体、極太楷書体、極太丸ゴシック体・超極太丸ゴシック体のみである点。
我々は、「とても太い明朝体」について語る際、いつ頃から一般的な形容として「極太」明朝と称するようになったのだらう。
百度のオプション検索で、萩原正人さんの研究成果を応用して「極太明朝:1996-1997」みたいな時間軸検索が可能になってくれると面白い。検索エンジン百度ぢゃなくてもいいけど。
たぶん1件もヒットしないと思ふんだども、「極太明朝:1994」の検索結果はどんなものになるだらうか。