日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

小山初太郎「活字型ノ説話」の一言

国会図書館も印刷図書館も持ってゐない、印刷局研究所の『印刷局研究所調査報告』第一号(明治四二年)を北海道大学附属図書館が所蔵してゐると知り、id:karpaさんにご協力をいただいて、同誌所収、小山初太郎「活字型ノ説話」の複写を取得した。
矢作勝美『明朝活字』も、矢作『明朝活字』を通じて間接的に「活字型ノ説話」に触れてゐる小宮山博史明朝体、日本への伝播と改刻」(『本と活字の歴史事典』asin:4760118918)も言及してゐない小さな一言に、引っかかりを感じてしまふ己。
小山初太郎「活字型ノ説話」の冒頭は、

我カ日本ノ活字型ハ各製造所毎ニ大同小異ナルカタメ植字上無益ノ手数ヲ要シ時間ヲ徒費スルコト多ク自然印刷物ヲ高価ナラシムルヲ以テ近来活版事業者間ニ全国ノ活字型ヲ一定センコトノ希求アルハ至当ノコトヽ信ス

――と書き出されてゐる。
度々引用される「著名ナル活字製造所ノ活字数種ヲ米国ぽいんと式計器ニヨリ調査シタルニ左ノ結果ヲ表ハセリ」といふ号数活字の実測結果は、かうした動機に支えられて示されてゐるんだども、さて、「近来活版事業者間ニ全国ノ活字型ヲ一定センコトノ希求アル」といふのは、どういうことだらう。
この「近来」が妙に気になってしょうがない。
例へば明治三十年代半ばまでは、印刷局の活字も築地活版の活字も製文堂の活字も同じ「○×号」だったらほぼ同じ大きさであり素直に混植できたのに、“明治三十六年体制”のせいで築地活版も秀英舎製文堂も印刷局と異なるサイズになってしまった、といふ話か。
実は明治十年代から常に既に混植時にハガキを噛ませるなどの細かい調整が必要だったが、印刷需要の増大とともに生産性を低下させる要因としてサイズ違ひが無視できないものになってきたといふことか。
このへん、「秀英舎(製文堂)の五号平仮名は明治30年代半ばに急激なモデルチェンジを遂げる」以来、マイクロフィルムぢゃなくて現実的にサイズ測定可能なリアル資料群にどうやったら接近できるだらうかと考へ続けてゐるテーマではある。
また同時に、小山の文章が明治四十二年といふ年に書かれてゐることを考へると、「明治三十六年に神戸の金子印刷所で差替係長として働いて」ゐて大正末年に「活字角ノ設定及活字種類限定ノ件」を衆議院に請願する三谷幸吉の活動とリンクする動きであることに、とても強く注意を惹かれてしまふ己。
「全国ノ活字型ヲ一定センコトノ希求」を示す資料がどこかにないものか。