徳永直は、『世界文化』昭和二十四年一月号掲載分の「光をかかぐる人々」続編中に、かう記してゐる。
http://d.hatena.ne.jp/HikariwokakaguruHitobito/20091108
ダイアがつくつた「支那語のうち最も重要な三千の文字の選集」というものは、漢字の、くらい、永い歴史にあびせた新らしい光であつた。それは「康煕辭典」の創造にもおとらない世界史的意義をもつものであつた。“A Selection of three thousand Characters being the most lmportant in the Chinese Language”という、長たらしい名前の書物を、いま私はみるすべをもたない(たぶん現存しないと思われる)けれど、それはきつと、印刷における漢字組織の、最初の傳統をつくつたものとして、今日、アジアじうの、印刷工場にある漢字ケースのなかに生きているにちがいない。
この、近代漢字活字の歴史上非常に重要な業績である、Samuel Dyerの“A Selection of three thousand Characters being the most lmportant in the Chinese Language”については、印刷史研究会『本と活字の歴史事典』所収の鈴木広光「ヨーロッパ人による漢字活字の開発」に詳しい。
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序文には、ダイアによる活字開発の経過が紹介されており、『論語』『国語』など中国人による著作やキリスト教関係の伝道用トラクトなど漢字統計調査のサンプルとなった著作の書名が漢字で記されている(なぜか奇妙なことに一三の著作しかあげられておらず、Chi. Rep. の「一四の著作」という記述と食い違っている)。
シンガポールの三一神学院が“A Selection of three thousand Characters being the most lmportant in the Chinese Language”のコピーを公開してゐることに気づいた己、早速序文を眺めてみた。
http://www.ttc.edu.sg/csca/rart_doc/dyer1834.pdf
直感的な感想であって、何らかの裏付けがあるわけぢゃねぇんだども、5頁に「論語○三国○馬買伝福音○朱子○国語○矩薙○聖書人名合地号礼記○西遊○勧世文○霊魂篇○張遠論○新増聖書節解○十條戒註明○」と掲げられた書名リストは、2行目から3行目にかけての部分が「聖書人名合地号」(「聖書人名地名小辞典」とでもいったようなテキスト)と「礼記」(四書五経のひとつ)の2タイトルを区切り忘れたものなんぢゃないかといふ気がした己。
鈴木先生、どうでせう?
ちなみに、三一神学院の中の人に尋ねてみたところ、上記「支那語のうち最も重要な三千の文字の選集」はoriginal printでは無い由。明言はされなかったんだども、1995年に大英博物館で発見された資料の複写なのだらう。