――いきなり20行高「49mm」から「1行あたりインチ」への換算を誤っている(そのためポイント換算も誤っている)だけでなく、「1行あたりインチ」からAnglo-American Pointへの換算においても、Tarr自身が本文に記した「one point = .138"」で計算しているところと、より適切な換算単位である「1アメリカン・ポイント≒0.1383インチ」で計算しているところが入り混じっているようだ。
これではTarr表は役立たずと言われてしまってもしょうがない。
せっかく、John C. Tarr『PRINTING TO-DAY』(Oxford University press 1944〈revised 1949〉)ではtypographical pointは0.1383インチまたは約72分の1インチだと書いているというのに……
先日Rchardson Jr.「Correlated Type Sizes and Names for the Fifteenth through Twentieth Century」を読んでみた際にチェックしておく必要を感じた、G. Thomas Tanselle「The Identification of Type Faces in Bibliographical Description」(1966『Papers of the Bibliographical Society of America』60巻2号) を読んでみた。
ペーパーの中身を読む前は「Identification of Type Faces」というのはつまり「Typeface=活字書体」の同定に関する話なのだと思っていたのだけれども、2部構成で書かれているこのペーパーの第1部は活字サイズに関する話で、第2部が活字書体に関する話。
第1部において、印刷された資料から大きさを推定していくしか手段がない我々(=bibliographer)にとって、Type(=活字ボディー)の大きさとFace(=文字ヅラ)の大きさのどちらを示しているのかを明確にしておくことが重要だ……という記述があり、この観点から(も)、表題が「Identification of Type Faces」なのだと解った。
Bibliographer目線で活字サイズのことを考えていくのに際して、Tanselle 1966と併せてFredson Bowers『Principles of Bibliographical Description』にも(今更ながら)目を通しておかなきゃいけないなと思っていたわけだけれども、このペーパーを読んだ結果、福島大学付属図書館所蔵本を閲覧しに出かける機会を待たずにAmazonマーケットプレイスに思いのほか安く出ていた1995年版を注文することにした。書影によるとTanselleによるIntroductionがついているらしく、その分得るところが多いような気がする。
第2部は、欧文書体特有の面が多い。
Bibliographerとして活字書体の分類・同定に活用できる手がかりとして、イギリス標準BS 2961:1967「Typeface nomenclature and classification」やドイツ工業標準DIN 16518「Norm zur Schriftklassifikation」を概説しつつ、「ローマン」「フラクトゥア」など欧文書体の大分類を書誌として採用するところを「レベル1」の記述とし、大分類に続く(ローマン書体の)中分類として利用されてきた「オールド」「スタンダード」「モダン」といった概念まで記載するのを「レベル2」とし……という具合に書誌の記載が高度化し、例えば、昭和7年3月28日付で鉄道省が発行した『日本案内記 近畿篇 上』(印刷者:日清印刷)に使われている本文活字は「東京築地活版製造所〈昭和新刻8ポイント明朝〉」だ、というようなものが最高度の「レベル6」になる。
日本でも、工業規格の一種である標準情報(TR) としてTR X 0003:2000「フォント情報処理用語」(および同「解説」)のようなものが作られているが、BSやDINのような書体分類は行われていない。